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定年後再雇用時の賃金引下げ「適法」とする判例(H28年11月2日東京高判(長澤運輸事件 控訴審判決))について

昨今、高年齢者雇用安定法に基づく雇用確保措置として、定年に到達した従業員の継続雇用制度を導入している企業が一般的になっています。

しかし、今年(平成28年)5月に「長澤運輸事件」について東京地裁が出した判決(原判決)は、そのような継続雇用制度の制度設計について、①職務内容や②職務内容及び配置の変更の範囲が同一であるにもかかわらず、有期契約労働者(定年後の嘱託社員)と無期契約労働者(正社員)との間で賃金額に相違を設けることは、それを正当とする特段の事情がない限り、労働契約法20条に反すると判断し、企業側に正社員と同一の条件での賃金支払を命じるものでした。

原判決は、平成24年に改正された労働契約法20条に関する新たな解釈を含んだもので、非常に注目されましたが、その判断に対しては批判もありました。

平成28年11月2日、その控訴審の判決がありました。

長澤運輸事件控訴審判決は、原判決を取り消し、控訴人勝訴判決(労働者側敗訴)となりました。

同事件の原判決については、既に裁判所のデータベースでも公表されており、多くの論評もあるため、ここでは控訴審判決が原判決と異なる判断に至ったポイントだけをご紹介します。

(1)労働契約法20条の解釈について

 控訴審判決では、労働契約法20条で有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理と認められるか否かの考慮要素として①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲の他、③その他の事情が掲げられているところ、③その他の事情としては、①,②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮する、としました。

原判決は、同条が①,②を特に重要な考慮要素と位置づけていることが明らかとしていましたが、控訴審は①,②が考慮要素の「例示」であるという解釈に立ち、①,②,③に優劣をつけませんでした。また、あくまで総合考慮というスタンスに立ち、原判決が独自に定立した基準(”①,②が同一であれば、賃金額に相違を設けることは特段の事情のない限り20条違反”というもの)は採用しませんでした。

(2)社会的に広く賃金引下げが行われていることについて

同業種(運輸業)、同規模(100人前後)の企業で採用されている継続雇用制度の内容として、継続雇用者の87.5%が「定年到達時と同じ仕事内容」とし、90%超が「同じ部署及び勤務場所」、84.6%が「フルタイム(変わらない)」としつつ、給与水準は平均して30%程度下がった(定年到達時を100とすると平均値68.3)ことを示す調査結果(独立行政法人労働政策研究・研修機構の「高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査」結果)を踏まえて、控訴審判決は、①,②が同一のまま賃金を引き下げることが、社会的に広く行われていることを認めました。

原判決は、「同じ仕事内容」という意味が①職務の内容の同一を示すか読み取れないなどと、一見して不可解とも思われるような理由で、調査結果のように企業一般に賃金引き下げがなされているとは認められないとしていました。

(3)賃金額の引き下げの程度について

控訴審判決は、被控訴人個々の賃金引下げが約20~24%の減となったことは、控訴人企業側で賃金の引下げ幅を21%程度になるように設計していたことからすれば想定の範囲内で、同規模の企業で3割程度引き下げるのが平均であることや、控訴人の本業である運輸業で収支が赤字であることなどから、直ちに不合理とは認められない、とされました。

原判決が、控訴人の財務状況から賃金コスト圧縮の必要は認めないとしていたのと対照的に、一企業の中の当該継続雇用者の部門の収支を一つの事情として考慮しています。

(4)賃金の差額を縮める努力をしたことについて

控訴審判決では、事前の労働組合との交渉などを通じ、企業側が有期契約労働者に対する賃金支給額を上げるために、歩合給を導入し、無事故手当を増額し、年金不支給期間に対応する調整給を導入したことを考慮して、個別の手当の不支給や金額の相違についても、不合理とは言えないとしました。

原判決では、事前に企業側が実施してきた労働条件の改善は、一方的なもので、組合との協議や合意、協定締結への努力がないとして、「特段の事情」に当たらないとしていましたが、控訴審は一定程度の協議があり、組合の意見を聞いて改善をしてきたことは考慮すべき事情と、③その他の事情として考慮することを示しました。

 

長澤運輸事件の控訴審判決は、以上のような事情の総合考慮によって、賃金額の相違に不合理性を認めないという結論で、被控訴人らの請求を棄却しました。

既に上告されたとのことで、今後も目が離せません。

以上

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