従業員の給料から従業員にかかった費用を天引きできる??~給与の相殺~
こんにちは。
先日顧問先様より「給与の相殺」についてお問い合わせがありましたのでコラムを🆙致しました。
業務のご参考に…。
労基法では、使用者が労働者に賃金の全額を支払わなければならないと規定されています。この規定により、原則として使用者は労働者の給与から控除をすることができません。
もっとも、例外として所得税控除のように法令によって控除が認められている場合(所得税控除ならば所得税法183条)や、労使協定により社宅費用や組合費等について控除を行うとの定めがある場合は、給与から控除をしても違法ではありません。
その他にも例外がいくつかあります。
下記にその例外を列挙してみます。
例外1.調整的相殺
前月に賃金の過払いがあった場合に、当該過払分を控除して翌月の賃金を支払う必要が生じることがあります。
そのような控除は、①控除の時期(過払いのあった時期と合理的に接着した時期か)、②方法(労働者への予告等があるか)、③金額(多額でないか)などからみて労働者の経済生活の安定を害さないことを条件に、上記の例外として許容されます。(参照:福島県教祖事件 最一小判昭和44・12・18民集23巻12号2495号)
例外2.放棄
労働者が賃金債権を放棄するということは認められるのでしょうか。
賃金について、労働者からの放棄があったと裁判で認められるためには、放棄の意思表示が「労働者の自由な意思に基づくものであることが明確」でなければなりません。
それでは、放棄の意思表示が「自由な意思に基づくものであることが明確」である場合とはどのような場合なのでしょうか?
裁判所は、
①放棄する内容を明確に理解して錯誤なく放棄したといえるか(書面で放棄を行っているか、説明や交渉が十分に尽くされているか等)
②放棄する意思表示が自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しているといえるか(放棄により労働者に相当の利益があると認められるか等)
を考慮して判断しているという指摘がされています。
例外3.合意による相殺
例えば、使用者の労働者に対する貸金債権と労働者の賃金債権を同意によって相殺することができるかということが問題となります。
上記が争われた事件(日新製鋼事件 最二小判平成2・11・26民集44巻8号1085頁)で、裁判所は、「自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」ときは、合意による相殺が賃金全額払原則に反しないと述べました。
上記の判断枠組みは、放棄のところで述べた判断枠組みと同様と考えられています。
【まとめ】
調整的相殺は、使用者からの一方的な意思表示で行えます。もっとも、それが許容されるかどうかは具体的な事情次第になるため、まずは、安全策として労働者との間に相殺の合意をとるのがよいでしょう。
相殺の合意をとる場合であっても、労働者から賃金債権の放棄をしてもらう場合であっても、書面をとることは必須です。
また、説明の場面では、相殺又は賃金放棄の理由を説明するべきです。その際、説明内容については書面に残しておき、当該内容の説明を行った旨を労働者に確認しましょう。その後、労働者の確認を書面で証明できるようにするために、書面に労働者の署名押印をもらう等してエビデンスを残しておくことが有用です。
給与の問題はセンシティブな問題で細やかな配慮が必要になります。
ぜひ弁護士までお気軽にお問い合わせください。
弁護士 大山口鉄朗
従業員の給料から従業員にかかった費用を天引きできる??~給与の相殺~
こんにちは。
先日顧問先様より「給与の相殺」についてお問い合わせがありましたのでコラムを🆙致しました。
業務のご参考に…。
労基法では、使用者が労働者に賃金の全額を支払わなければならないと規定されています。この規定により、原則として使用者は労働者の給与から控除をすることができません。
もっとも、例外として所得税控除のように法令によって控除が認められている場合(所得税控除ならば所得税法183条)や、労使協定により社宅費用や組合費等について控除を行うとの定めがある場合は、給与から控除をしても違法ではありません。
その他にも例外がいくつかあります。
下記にその例外を列挙してみます。
例外1.調整的相殺
前月に賃金の過払いがあった場合に、当該過払分を控除して翌月の賃金を支払う必要が生じることがあります。
そのような控除は、①控除の時期(過払いのあった時期と合理的に接着した時期か)、②方法(労働者への予告等があるか)、③金額(多額でないか)などからみて労働者の経済生活の安定を害さないことを条件に、上記の例外として許容されます。(参照:福島県教祖事件 最一小判昭和44・12・18民集23巻12号2495号)
例外2.放棄
労働者が賃金債権を放棄するということは認められるのでしょうか。
賃金について、労働者からの放棄があったと裁判で認められるためには、放棄の意思表示が「労働者の自由な意思に基づくものであることが明確」でなければなりません。
それでは、放棄の意思表示が「自由な意思に基づくものであることが明確」である場合とはどのような場合なのでしょうか?
裁判所は、
①放棄する内容を明確に理解して錯誤なく放棄したといえるか(書面で放棄を行っているか、説明や交渉が十分に尽くされているか等)
②放棄する意思表示が自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しているといえるか(放棄により労働者に相当の利益があると認められるか等)
を考慮して判断しているという指摘がされています。
例外3.合意による相殺
例えば、使用者の労働者に対する貸金債権と労働者の賃金債権を同意によって相殺することができるかということが問題となります。
上記が争われた事件(日新製鋼事件 最二小判平成2・11・26民集44巻8号1085頁)で、裁判所は、「自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」ときは、合意による相殺が賃金全額払原則に反しないと述べました。
上記の判断枠組みは、放棄のところで述べた判断枠組みと同様と考えられています。
【まとめ】
調整的相殺は、使用者からの一方的な意思表示で行えます。もっとも、それが許容されるかどうかは具体的な事情次第になるため、まずは、安全策として労働者との間に相殺の合意をとるのがよいでしょう。
相殺の合意をとる場合であっても、労働者から賃金債権の放棄をしてもらう場合であっても、書面をとることは必須です。
また、説明の場面では、相殺又は賃金放棄の理由を説明するべきです。その際、説明内容については書面に残しておき、当該内容の説明を行った旨を労働者に確認しましょう。その後、労働者の確認を書面で証明できるようにするために、書面に労働者の署名押印をもらう等してエビデンスを残しておくことが有用です。
給与の問題はセンシティブな問題で細やかな配慮が必要になります。
ぜひ弁護士までお気軽にお問い合わせください。
弁護士 大山口鉄朗