ベンチャー企業が出資者等と株主間契約書を締結する時の注意事項について

1 株主間契約書とは何か

株主間契約書とは、株主相互間または株主と会社との間で、株式の譲渡、議決権行使、経営への関与、将来の資本政策等について合意する契約をいいます。

法令上の明確な定義はありませんが、実務上は投資契約の一類型として位置付けられることが多く、株主総会・取締役会と並び、会社経営を長期にわたり拘束する重要な契約です。

特にスタートアップでは、創業初期に締結した株主間契約が、後続ラウンドやEXIT(M&A・IPO)段階で大きな制約となることが少なくありません。

2 定款・会社法との関係を必ず確認する

株主間契約は契約である以上、当事者間では有効ですが、会社法や定款に抵触する条項は効力が認められない可能性があります。

例えば、一定の場合に株式譲渡が義務付けられるという条項を設けたとしても、定款に株式譲渡制限(会社法107条、108条)の定めがあれば、その手続を省略することはできません。

また、取締役選任や解任との関係で、株主間契約で「必ずこの人物を取締役に選任する」と定めても、株主総会決議が省略できるものではありません。仮に、株主が求めた人物が取締役等に選任されなかったとしても、契約違反としての損害賠償責任が問題となるにとどまる場合が多く、条項の実効性を冷静に検討する必要があります。

もっとも、スタートアップ企業において、投資家は投資時点の経営者が経営に専念することを前提として投資するため、そのような取締役の辞任や再任拒否を制限する条項が置かれることが有ります。

このような条項を無効とした裁判例(大阪地裁昭和63年11月30日判時1316号139頁)もあるものの、これはスタートアップ企業の事案ではなく、スタートアップ企業への投資に際しては制約自体が許されないとすると投資家に大きな不利益があるとも思われますが、仮に辞任した場合には損害賠償責任を負うと言った形で責任を負わせるほうが現実的だと思われます。

3 経営権に関する条項のバランス

出資者側から提示される株主間契約には、以下のような条項が含まれることが一般的です。

・重要事項に対する拒否権(Reserved Matters)
・事業計画・予算の承認権

これらは、出資者保護の観点から合理性がある一方、過度に認めると創業者の機動的な経営判断が阻害されます。
特に、拒否権の対象となる「重要事項」の範囲が広すぎないか、実務上の運用を想定して精査すべきです。

4 株式譲渡・EXIT条項は将来を見据えて検討する

株主間契約では、将来の株式譲渡やEXITに関する条項として、例えば次のような条項が定められることが多くあります。

⑴ 譲渡制限・優先交渉権

既存株主から社外の第三者への株式譲渡を制限する一方で、株主や会社においては優先的に株式を買い取ることができるとする条項です。信頼関係のない第三者の介入を防ぎ、既存株主の持分比率を維持することが目的です。

⑵ 共同売却請求権(Tag Along)

他の株主(主に創業者)が株式を売却する際、同じ条件で一緒に売却することを請求できる権利です。少数株主として「取り残されるリスク」を防ぐとともに、大株主が売却時に享受する利益と同等の利益(ここには、経営権に相当する評価上乗せ分としてのコントロール・プレミアムが含まれることがあります。)を享受するために機能します。

⑶ 強制売却条項(Drag Along)

一定の要件を満たした場合、多数派株主が他の株主に対し、自分と同じ条件で売却に応じるよう強制できる権利です。M&Aの際に全株式の取得を求める買収者の意向に応え、一部の反対株主によって出口戦略が停滞するリスクを防ぐ意図で設定されます。
投資家主導で条項が発動された場合には、意に反した売却を強いられるという点で創業者にとって不利に働く可能性がある一方、創業者主導で発動する場合には、ベンチャーキャピタルなどの反対を排除してM&Aを完遂させるための有利な手段となります。

⑷ IPO時のロックアップ条項

上場後、一定期間(通常180日間など)は保有株式を市場で売却しないことを約束する条項です。上場直後に大株主が一斉に売却することで株価が急落する現象を防ぎ、市場の需給安定と、新規投資家への安心感を与えるために設けられます。

これらの条項は、将来のIPOやM&Aの時期、シナリオを想定し、条項の発動条件や対価の算定方法など詳細を確認することが不可欠です。

5 後続ラウンド・第三者への影響

初期投資家との株主間契約は、後続投資家の参加を阻害する要因になることがあります。
実務上、ベンチャーキャピタルは、既存の株主間契約を精査し、不利な条項の修正や解除を投資条件とすることも少なくありません。

将来の資金調達を見据えたときに、特定投資家に過度な権利を付与していないか、条項変更のハードルが高すぎないか、といった点も重要です。

6 弁護士による事前チェックの重要性

株主間契約は、会社の成長過程において締結するものの、一度締結すると変更が困難であること、会社が成長した後の局面で影響が顕在化し、その段階では出資者との力関係で修正が難しいという特徴があります。
特にスタートアップ初期では「資金調達を急ぐあまり内容を精査しない」ケースが少なくありませんが、そのリスクは極めて大きいといえます。

スタートアップ初期であっても重要な契約であることから、その締結前に、スタートアップ法務に精通した弁護士が関与することは、将来の経営トラブルを回避するうえで不可欠です。

本江法律事務所では、スタートアップ支援の経験を踏まえた株主間契約の適切なレビューが可能です。
お気軽にご相談ください。

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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。

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