内部通報窓口に弁護士を活用すべき理由とは

1 内部通報窓口が必要な理由とは?

コンプライアンス違反の問題は、外部からは分からない段階でも、内部の従業員や役員には十分に認識されていることがあります。これを早めに発見し、是正することは、企業が不祥事で大きな損失を被らないようにするために非常に重要です。しかし、内部者が不祥事を通報して不利益を被るおそれがあると、早期発見・是正は非常に難しくなります。
そこで、公益通報者保護法が令和2年改正によって、企業や各種法人には公益通報への対応業務従事者を定めることや、公益通報者の保護を図るなどの適切な対応のために必要な体制の整備が、義務となりました(但し、従業員300名以下の場合には努力義務。)。
いわゆる「内部通報窓口」という名称で呼ばれる制度で、厳密には公益通報者保護法に定められた法令違反行為などを内容とする通報に対応することが求められているのですが、通報者側が通報段階で対象となるかどうかを判断することは難しいため、各企業では通報対象を余り限定することなく、内部通報制度を整備している状況です。
この内部通報窓口として、弁護士(法律事務所)を活用することのメリットと、その場合の注意点について、以下で解説します。

2 内部通報窓口を社外に設けることのメリット

・役員や上司に知られることなく通報ができる

社外に窓口がない場合、特定の社内の通報窓口に通報することとなります。社内の窓口としては、取締役・監査役等の役員や、特定の部署(人事部・総務部など)を指定する場合が多く、その部署に所属する従業員にとって、通報したことが直ちに上司に知られてしまう、と躊躇する可能性があります。

・匿名性を守ることができる

社内の窓口に通報した場合、たとえ通報者が名乗らなくとも、声や通報の状況などから氏名が特定されてしまう可能性が高く、そのことが重大な不祥事を通報することの妨げとなる可能性は否めません。これに対し、社外に通報先を設置した場合には、通報者の希望に沿って氏名等が特定されないようにするためのフィルタリングの作用が期待でき、公益通報者の保護に繋がります。

・社内のリソースが不足している 

社内に窓口を設けるためには、担当者が公益通報者保護法や通報後のフローを理解している必要があります。そこで、担当部署や担当役員が公益通報対応業務従事者となった場合に、そういった実務を自ら把握し、担当者に指導・教育する必要があります。また、現実には臨機応変の対応も必要となるため、相談対応については、一定の経験のある人員が適当と思われますが、社内にリソースが不足している状況では、外部に委託することが合理的な選択となります。

3 内部通報窓口を弁護士にするメリット

・対外的・対内的なホワイト企業アピールに有用

社外の弁護士が通報先となることは、一般的には企業として通報内容を社内で握りつぶすようなことが起こらないという期待を抱かせるものです。そのため、対外的にも対内的にも、コンプライアンスの遵守体制を備えたホワイト企業であるという印象を抱かせ、かつ、現実にもホワイト企業化していく施策と捉えられます。

・通報者保護のための守秘義務を備えている

弁護士は日常的に守秘義務を負っていることから、公益通報者保護や、公益通報に当たらない事象においても、弁護士が社外の内部通報窓口となることにより、通報者の個人情報の的確な管理が期待できます。

・通報内容を的確に把握する能力がある

弁護士が通報を受けることで、的確に事実聴取が行われ、必要な情報を漏れなく聞き取ることができます。これは日常的に相談対応をしているからこそ、紛争(となり得る事案)の要点を早期に把握し、詳細を質問する能力を備えています。
例えば、トレーニングされていない人が聞き取りを行うと、通報者が述べる事実が、自らの体験なのか伝聞なのかといったことや、その時期や場所、資料があるかどうか、といったことについて聞き漏れてしまうことが往々にしてありますが、最初に重要な点を確認することで、その後の調査計画も立案し易くなると言えます。

・把握した通報内容を踏まえた調査計画を立てられる

通報受付後のフローとして、事実関係の調査は必須ですが、その調査においても情報管理や通報者保護の要請が貫かれる必要があります。また、調査対象者の選定や順序、聴取等に先立つ資料確認など、調査の流れについては、個別の事象に応じて臨機応変に定められる必要があり、そのような計画立案は、常日頃から訴訟対応などで調査対応を行っている弁護士の得意分野といえます。

・通報に関わる二次被害防止ができる

通報者はもちろん、通報に関連する者に対しても、事実関係が認定できるまでの間は情報を的確に管理し、事実認定後においても、その事象に相応しい措置を企業として検討、実行するまでの間に、謂れのない攻撃が加えられることを防止することは重要です。弁護士が関与することで、合理性のない攻撃が加えられるリスクを回避することができます。

4 内部通報窓口は顧問弁護士でいいか

・顧問弁護士が窓口であることが多い

内部通報窓口を顧問弁護士の法律事務所としている企業は多く、令和5年に実施された調査結果では約44%の企業が顧問弁護士に任せていると回答しています。
大手の企業でも、顧問弁護士に任せているという割合は低くなく、実際の問題として、企業が顧問弁護士以外に信頼できる弁護士と関係することは、それなりにハードルの高いことだと思われます。そのため、今後も顧問弁護士が窓口となることが全く否定されるかというと、その可能性は低いと思われます。

・顧問弁護士を窓口にするメリット 

実際、顧問弁護士が内部通報の窓口となることで、メリットも認められます。例えば、通報内容を早期に的確に把握するために必要な当該企業の組織図・役職や業務内容について、顧問弁護士はある程度まで的確に把握しているものと思われ、通報を受ける役割として適任という側面もあります。

・顧問弁護士に任せることのデメリットとは

一方で、顧問弁護士に内部通報窓口を任せることは、一定のデメリット・リスクがあることも事実です。
それは顧問弁護士が、通報者との関係で「利益相反的な立場」にあることです。顧問弁護士は日常の顧問業務において企業の役員や管理部門の担当者と密に接触を持っていることが多く、通報者が激しく企業側・役員側と対立するような通報をしてきた場合に、その通報者を保護することは、企業を守る立場と矛盾する側面が否定できません。この点は消費者庁も、次のように指摘しています。
「顧問弁護士に内部公益通報をすることを躊躇(ちゅうちょ)する者が存在し、そのことが通報対象事実の早期把握を妨げるおそれがあることに留意が必要です。
 また、顧問弁護士を内部公益通報受付窓口とする場合には、例えば、その旨を労働者及び役員並びに退職者向けに明示する等により、内部公益通報受付窓口の利用者が通報先を選択するに当たっての判断に資する情報を提供することが望ましいと考えられます。」
つまり、顧問弁護士であることは、通報の妨げになり得るけれども、それを隠して窓口となることにも問題がある。顧問弁護士以外の窓口を設けることも検討すべきだということになります。

・顧問弁護士ではない通報窓口対応の弁護士を選定する

以上のように考えると、顧問弁護士が社外の通報先に選定されているときであっても、更に顧問弁護士でない弁護士を通報窓口とすることも選択肢の提供として求められるところです。特に一定規模の企業、例えば従業員5001名以上の企業では年間通報100件超という企業の割合が35.8%と高いことから、複数の通報窓口を設けることは十分に合理的な対応であると考えられます。
通報窓口対応に特化して法律事務所を選定するときのポイントとしては、企業法務に精通していること、料金体系が明確であること、役職員との個人的な関係がなく、企業としても事件等を依頼したことがない弁護士であることが重要です。

5 当事務所の内部通報窓口としての対応

当事務所は、福岡・京都に拠点を有し、顧問先として上場企業の対応も行っています。企業側で労務問題に精通している他、多くの企業法務対応を経験し、複数の企業の内部通報窓口を務めており、料金体系も明確にしている他、企業様の要請に応じて別途見積りをさせていただいております。
内部通報窓口を社外に設置することを検討しておられる企業の経営者様・ご担当者様におかれましては、お気軽にご相談ください。

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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。

※日本全国からのご相談に対応しております。

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