ストックオプションを巡る法的リスクと失敗しない運用方法

1 ストックオプションの概要とメリット

ストックオプションとは、株式会社が、その役職員に対し、インセンティブ報酬の代わりに付与し、その行使により株式の交付を受けることができる権利のことを言い、会社法上の新株予約権や新株予約権付社債がこれに該当します。

ストックオプションの付与は会社にとって財産流出を伴わないことから、多くのスタートアップ企業により、将来の企業価値向上を目指すためのインセンティブとして活用されています。

ストックオプションを付与する対象は、一般に役員や従業員です。特にスタートアップ企業では、経営陣だけでなく、企業の成長に貢献する重要な立場にいる従業員や、外部のエンジニアなどに対しても、インセンティブとして付与されるケースが多く見られます。

ストックオプションが付与されたときにインセンティブとして働く理由は、その権利を行使した時に、その付与の時点で予め定められた価格(権利行使価格)で株式を取得できる点にあります。これにより、将来的に会社の企業価値が上がった場合でも、従業員や役員は低い価格で株式を取得し、その後市場価格で売却することで利益を得ることができます。

内部留保に乏しいスタートアップ企業は、優秀な人材の確保やモチベーション向上につながるインセンティブとして、ストックオプションを有効に活用していく必要があります。

また、ストックオプションは、その設計に際し、会社の要求により、行使して行使価額の払込みを行うことを義務付けることもでき、機動的な資金調達の手法として利用されることもあります。

 

2 ストックオプションの付与から権利行使までの流れ

ここでは、取締役会設置会社(非公開、種類株式不発行)を前提に、ストックオプションを付与する際の手続と、権利行使までの流れを概説します。

  • 募集事項の決定

まず、会社は、発行を予定するストックオプションの内容及び数量、付与や行使の価額・時期といった条件を決めます。この決定手続は、株主総会の特別決議で行われますが、ストックオプションの内容と数の上限、無償か有償かといった条件以外は、取締役会に決定を委任することができます(239条1項)。これら募集事項は付与対象者に通知され、対象者がこれを受けて引受けの申込みを行い(242条1項、2項)、ストックオプションを付与されます。

  • 権利行使の条件

通常、価格・期間以外にも様々な条件を付加することができ、これは新株予約権割当契約(ストックオプション付与契約)において詳細に定められます。例えば、業績や株価や、行使時に会社の役員や従業員であることなどを条件とすることがあります。

  • 登記手続

ストックオプションが付与されたときは、発行された新株予約権の数や権利行使価額、権利行使期間その他の条件などを登記申請する必要があります。また、権利行使があったときも、2週間以内の登記手続が必要とされています。

  • 権利行使の方法

ストックオプションの行使方法については、定められた権利行使期間内に権利者が会社に対して権利行使の申請を行い、権利行使価額の払込みを行い、会社は株式を交付します。令和元年法改正で、この権利行使に際して金銭払込みを要しないとすることができるようになりましたが、これは上場会社において取締役等にストックオプションを付与するときに限られます。ただ、それ以外の場面でも、権利行使価額を1円とすることも認められているため、このような方式が用いられることが増えていると言われています。

 

3 ストックオプションのデメリット

ただ、ストックオプションには、いくつかの重要な問題点が挙げられます。

まず、対象者が事業に貢献していたとしても、付与時から企業価値が上昇しなければ、権利行使による利益が得られるという期待が薄れ、かえってモチベーションが下がる原因となりかねません。また、付与数の配分によっては、役員・従業員の間で不公平感や不満が生じることもあります。さらに、権利行使で株式を取得したタイミングで、その役職員が会社を去るという選択をするリスクが存在し、これが会社の成長の持続にとって悪影響を与える可能性があります。

加えて、ストックオプションの発行によって既存株主の株式保有割合が希薄化するため、既存株主からの理解や調整も必要です。この点は、ストックオプションの発行数量上限などとの関係で後述します。

さらに、権利行使期間や条件によっては、上場までに時間がかかってしまったり、上場前に退職してしまうことで、創業時から在籍していたメンバーが実際には権利を行使できないという事態も発生し得ます。

このように、ストックオプションの設計や運用には、慎重な検討とバランスが求められます。

 

4 ストックオプションの発行数量の上限

通常、ストックオプションの発行数量の上限は、ストックオプション・プールとも言われ、スタートアップ企業が投資家との間で株主間契約を締結する際に、投資家の事前承諾や優先引受けの対象とせずに会社が発行できるストックオプションの発行数量(割合)の上限として定められるのが一般的です。

この枠をどの程度に定めるかは、ストックオプション発行の目的、会社の規模や成長段階、既存株主の持株比率などを踏まえ、慎重に検討される必要があります。日本のスタートアップ企業の場合、全株式の5〜15%程度をストックオプション枠として設定することが一般的と考えられます。この割合が高すぎると既存株主の希薄化につながりますが、例えば大学発ベンチャービジネスの場合には、大学に対するライセンスフィーの代替としてストックオプションの発行を行うといった必要もあることから、その発行数量なども加味して、この上限枠を設定する必要があります。

 

5 税制適格ストックオプションについて

新株予約権は、時価が権利行使価格を上回らない場合には権利行使をしないという選択肢がある点で、「オプション」としての経済的価値が算定できます。これは新株予約権の「公正な価額」として一定の前提条件の下で計算され、その額を発行価額として付与されるのが「有償ストックオプション」と言われます。有償の場合、付与の際には発行価額を払い込み、さらに権利行使時には行使価額を支払うことになりますが、権利行使時に「譲渡課税」があります。これは「給与課税」に比較して、税率が低く、税制上はメリットがあります。社外のビジネスパートナーに付与されるのは、この有償ストックオプションになります。

一方で、無償で付与される無償ストックオプションについては、権利行使時に課税されない「税制適格ストックオプション」と、そうではない税制非適格のものと分かれます。税制適格とされるためには、付与の対象、権利行使期間(付与決議後2年を経過した日から10年を経過する日まで)、権利行使限度額(年間1200万円を超えない)、譲渡制限、権利行使価額(付与時の時価以上)といった条件を満たす必要があります。

インセンティブ効果については、無償であるがゆえに恩恵を感じにくい税制適格ストックオプションよりも、身銭を切って取得した有償ストックオプションの方が高いと評価されることもあり、導入時には、将来の成長スピードを踏まえて設計することが重要です。

 

6 ストックオプションの発行に伴う法的リスク

ストックオプションを発行する際には、新株予約権の有利発行(会社法238条3項)に該当するか否かを検討する必要があります。これに当たるにもかかわらず特別決議を経ていないときは、その発行の差止めが認められる可能性があります。同様に取締役への付与に際しては、役員報酬として株主総会決議を経る必要もあります(同361条)。

また、上記のように税制適格となるかどうかなどの税務リスクは、会社にとっても役員個人にとっても大きな意味合いがあるため、ストックオプションの発行は、必ず税務の専門家のアドバイスに従って計画的に進められる必要があります。

このようにストックオプションの発行に際しては、法的なリスク・税務リスクも含めて十分に把握し、法令・定款に沿って適切に手続を進めていくことは当然ながら、将来的な成長へのインセンティブとして有効に働くように募集事項・行使条件の具体的な内容を設計する必要があります。

是非、企業法務に精通した弁護士にお気軽にご相談下さい。

Website | + posts

2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。

※日本全国からのご相談に対応しております。

取扱分野
福岡市の顧問弁護士相談
解決事例
お客様の声

お気軽にお問合せ、ご相談ください。 お気軽にお問合せ、ご相談ください。 メールでのご相談はこちら