労働時間管理とは
労働基準法には、労働時間、時間外労働、休日労働及び深夜労働の定めがあり、使用者について時間外労働等に対して割増賃金を支払う義務が定められていることを踏まえ、使用者には労働時間を適正に把握する義務があるとされてきました。
さらに2019年に改正(施行)された労働安全衛生法において、労働者の健康管理の観点から、客観的な方法その他適切な方法で全ての労働者(残業代が発生しない場合も含めて)の労働時間を把握する義務があるとされました。
使用者には、一定時間を超えた長時間労働を行った労働者から申出があったときに、医師による面接指導を実施する義務があるとされ、この義務を履行するためにも、労働時間の適正把握は、大前提となります。
労働時間の管理のポイント
① 始業時間・終業時間を、使用者が現認して、あるいは客観的な方法(タイムカード、ICカードなど)で記録し、記録を保管すること。
② 自己申告制による場合、労働者に対し、適正な申告が行われるよう十分に説明を行い、必要に応じて実態調査を行い、適正申告を阻害しないこと。
③ 長時間の時間外労働等により法律上の長時間労働規制に違反しないようにすること。
労働時間・時間外割増賃金の計算方法
労働時間は始業時間から終業時間までの時間数から休憩時間数を差し引いて計算されます。
労働時間は1分単位での計算をする必要があり、遅刻や早退した場合にはその時間数を差し引くことになります。
休憩時間には、使用者からの指揮命令から解放されている必要があり、実態がそのようになっているかどうか、注意が必要です。
時間外労働等に対する割増賃金の支払いが必要となる場合の割増率は次のとおりです。
時間外労働:法定労働時間(1日8時間など)を超えた労働で、割増率25%以上(月60時間を超える時間外労働については割増率50%以上)
深夜労働:午後10時~午前5時までの間の労働で、割増率25%以上
休日労働:法定休日における労働で、割増率35%以上
実際の計算は、労働者ごとに収入の時間単価を算出し、割増率を乗じることになります。この単価(割増基礎単価)は、月給制の労働者の場合、1か月あたりの平均所定労働時間数で1か月の賃金を割って算出します。
この割増賃金の基礎となる賃金には、基本給や各種手当が該当しますが、通勤手当や家族手当など、労働と直接的な関係が薄い手当は除外されます。
労働時間管理の必要性
労働時間の管理は、割増賃金の支払いに必要となるとともに、労働者の健康被害を防ぐために必要とされます。
特に、次の時間外労働の上限規制に違反していないかどうかを把握することは必須です。
・時間外労働が年720時間以内
・時間外労働と休⽇労働の合計が⽉100時間未満
・時間外労働と休⽇労働の合計について2か⽉~6か⽉平均が全て1⽉当たり80時間以内
・時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは、年6か⽉が限度
この規制に反する場合や、明らかに反してはいないものの時間外労働等が恒常的に長時間となっているような場合には、労働者にとって脳・心臓疾患や精神障害を発症するリスクが高くなっていることとなり、これらが発症した場合には業務上の疾病として使用者の責任が問われることになりかねません。
労働時間管理に関する相談が多い業種
労働時間の管理に関連する相談として、次の業種から多い傾向にあります。
運送業
建設業
情報通信業
IT業
宿泊業
飲食業
教育関連業
医療・介護事業
サービス業
長時間の残業・時間外労働が常態化している業種や、労働時間の把握が困難な業種で問題になることが多く、法的な紛争に発展しかねない場合には、弁護士などの専門家に相談することが必要となります。
労働時間管理に弁護士が提供できるサポート
法的な紛争に至っていない場合でも、労働時間管理の仕方によっては、法的紛争が起こったときに使用者が不利になることが明確に予想されるケースが多々あります。
特に割増賃金額を抑制するための対策を講じているケース、例えば、固定残業代を支給するようなケースや、課長以上の管理職に対する時間外労働の割増賃金の支払いをしていないケースなどで、裁判例に照らすと、要件を充足していないと判断されかねない場合があります。
日常的な割増賃金の計算にとどまらず、紛争防止の観点からも労働時間管理が必要という前提に立って、労働時間管理の仕方を見直すことが必要です。
近年、労働基準監督署も労働時間管理に問題がないかどうかを積極的に調査する事例が出てきており、企業として無関心ではいられません。
誤った労働時間管理を行っていると、いつの間にかブラック企業のような扱いをされて、人材の採用や定着が難しくなるといったリスクも考えられます。
使用者としては、企業の持続的な成長・発展を阻害することなく、適正な労働時間を把握することが必要です。そのような目線からアドバイスができる、使用者側で対応する経験が豊富な弁護士に相談することをお勧めします。
当事務所は、福岡・天神に拠点を構えて、長年、企業側で多くの労務相談に対応してきた実績があります。事業の発展と両立する労働時間管理について、各種社内規程の見直しも含めて、お気軽にご相談ください。
2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。
※日本全国からのご相談に対応しております。