運送業
運送業は、典型的な労働集約型の事業です。そのため、事業運営に伴い生じる様々な課題は労務に関連したものが多くなります。
例えば、トラック運送業の場合には、ドライバーの長時間労働が常態化していることが長年の課題となっています。トラック運送事業者は、荷主との関係で、取引上の立場が弱いことから、運賃などの料金単価を上げることが難しい、という課題があります。そのため、人件費を抑えることや、一人当たりの生産性を向上することが事業継続のためには必須で、荷主の都合による荷待ち時間などが発生することもあいまって、長時間労働の常態化や、未払残業代といった問題が発生しやすい事業環境にあります。
加えて、運送事業者は、監督官庁である国交省(運輸局・運輸支局)から監査を受けることとなっており、その結果、法令違反が判明した場合には、自動車の使用停止、事業停止、許可取消などの行政処分、改善命令等の対象となるおそれがあります。また、自動車運送事業者の法令違反に対する点数制度が導入されており、原則として3年間で一定の点数が累積すると、事業の許可取消しや事業停止、違反事業者名の公表などの処分が適用されるおそれがあります。
運送業での労務トラブル防止について
長時間労働は、従業員の脳・心臓疾患や精神障害発症の原因となり得ることは現在では広く知られています。また交通事故を誘発するおそれもあり、休憩時間・休息時間の正しい管理は極めて重要です。
ドライバーの荷待ち時間・待機時間が労働時間として残業代を発生させるかという問題については、裁判例も数多くあります。裁判所の判断基準を理解した上で、社内でのルールの決め方、指示の仕方などをきちんと検討しておくことが対策として有効です。
労務に関する問題は、対策が万全であると思っていても、トラブルになったときにはケースバイケースで対応を考える必要があります。
2024年4月には、「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制」が適用されることが決まっており、年間960時間(平均すると、1日当たり4時間前後)という枠内で時間外労働時間を管理していくことが求められることになります。
運送業と事業承継・M&A
また、トラック運送事業などを中心に、高齢化の波を受けて事業承継の必要性が高まっています。
事業譲渡やM&Aの場面でも、労務の問題が生じることがあります。例えば、運送事業を他社に売却した後になって、長時間労働が常態していたことが判明し、表明保証違反で損害賠償請求がされた事案も発生しています。
売り手として事業譲渡する場合、そういったリスクが事前に明らかになっていたとしても、本来の事業価値を下回る金額になりかねず、交渉の障害となることも考えられます。
社会保険労務士に日常的な労務対策を依頼し、管理体制を築くことは大事ですが、それと同時に、トラブル発生時に早期に弁護士に相談できるような体制にしておくことが運送事業の継続には不可欠です。
当事務所は、福岡の運送事業の業界特性を理解した上で法務アドバイスをさせていただくことを心がけ、随時ご相談に対応しております。
2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。