従業員が自殺した場合に会社の対応はどうする?【福岡で企業法務に強い顧問弁護士】

 【ご相談内容】企業経営者や人事担当者の方から、「当社の従業員が自殺してしまいました。初期対応や何か注意しておくべき点がありましたら教えてください。」

このような場合、まずは大前提として、亡くなった方の遺族に、哀悼の意を以て接することは当然です。このような対応をしていない会社から相談を受けたとすれば、法的な助言以前の問題として指摘させていただくことになります。

ただ、会社にとって容易でないのは、

(1)どのようなリスクがあるかを把握すること、そして、そのリスクとの関係で、

(2)どのような行動を取るべきか、という問題です。

労災、損害賠償請求のリスクについて

会社として把握しておくべきリスクとは、主に、遺族が「労災申請」や「損害賠償請求」を行うリスクになります。
これらのリスクがどの程度あるのかを理解するには、①自殺の原因は何か? ②自殺の予兆があったか? といったことを中心に、自殺に至る経緯を正確に把握する必要があります。

労災や損害賠償請求の要件とは

労災や損害賠償責任が認められるための要件として、まず第1段階は「業務によって精神障害が発病した」といえるかどうかを把握する必要があります。
この判断基準(要件)は、通達で示されており、それを裁判所も採用しています。

厚生労働省の認定基準はこちら

具体的には、要件として、
① 一定の精神疾患(うつ病や統合失調症、パニック障害など)が発病していたと言えること
② その発病の前の約6か月間に業務により強いストレスを受けていたと言えること
という2つの事情が必要になります。

そして、これらの事情が認められる場合には、業務により精神疾患に発病した結果として自殺した、という形で、精神疾患と自殺との因果関係が(原則的に)認められることになります。

労災・損害賠償請求の要件の定式化 

これらの判断については、ある程度の定式化が進んでいます。

特に「労働時間数」との関係では、平成13年以降、裁判例を踏まえて、厚生労働省の通達で、どのような場合に精神疾患の発病と労働時間数との関係が認められるかを判断するための基準が公表されています。

重要な基準の一つは、発病前の2か月間ないし6か月間に、平均して1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合です。
例えば、1ヶ月の労働時間数が約240時間を超える場合には、この基準を満たすということになります。

もう一つは、発病前の1か月間に、おおむね100時間を超える時間外労働時間があったこと。
言い換えれば、1ヶ月の総労働時間が約260時間を超える場合に、その直後に精神疾患が発病していたとすれば、それは業務によって発病したものだと因果関係が認められることになります。

これらの基準はあくまで最も分かりやすい例です。
この二つに当たらないからと言って、会社の責任が直ちに否定されるものではありません。
セクハラ、パワハラを始めとしたストレス要因となるようなエピソードが加わる場合には、より短い労働時間数であっても会社が法的に責任を負うことになる可能性は否定できません。

どのような行動を取るべきか

当事務所は、法的な知識と、把握できた事情に対する評価を踏まえて、企業側が不必要・不相当な賠償義務を抱えるというリスクを回避するため、あるいは予防するために、どのような行動をしたらよいか、具体的にアドバイスをしています。自社に顧問弁護士がいる場合には、状況を逐一報告しながら、対応について継続的に相談していく体制を取るべきだと思います。

企業である以上、利益の追及が目的です。したがって、自社が損害賠償責任を負わなくても良いようにと考えることは当然と言えます。
しかし、そうだからこそ、賠償請求を検討している可能性があるご遺族との関係では、紛争化を回避することが最も重要です。そのために必要なのはご遺族の感情に寄り添った対応ということになります。
つまり、この段階で顧問弁護士に相談する理由は、「提訴リスク」を押さえるための対応方針をアドバイスしてもらうためです。

大切な家族を亡くしたご遺族にとっても法的な紛争に突入することは極めて強いストレスを伴います。それでも敢えて紛争に踏み切るとすれば、それは自殺された家族が務めていた企業に対する怒りが沸点に達しているから、ということが言えます。

そのような感情への配慮も含め、多角的な視野からのバランスの取れた対応策として、ケースバイケースではありますが、概ね次の点が問題になります。

(1)会社が取るべき初動対応

従業員が亡くなった以上、まずは社会的儀礼として当然の行動を取る必要があります。
従業員のご遺族は、通常、大きなショックを受けていますが、会社側の誰が通夜・葬儀に参列したか、お悔やみの言葉を述べたか、といったことは見ているものです。
直接の上司や同僚だけでなく、代表者を始めとする経営陣もできる限り参列し、ご遺族の気持ちに寄り添う姿勢を取るべきです。

一方で、ご遺族の感情に配慮して、亡くなった原因や事実関係などの話を個々の社員が軽々にすることは絶対に控えるようにと伝えておくことは重要です。
亡くなった直後にそのような質問を遺族からされるケースも珍しくはありませんが、そのような質問に対しても、『社内調査を行った上で会社として回答することになります』などと一貫した対応がなされるように、認識を共通にしておくべきです。
それによって、配慮不足な言動を防止することにもつながります。

退職の手続(健康保険証の返還など)や私物の引取といった事務的な話は、初七日法要が終わったタイミングで行えば十分です。

(2)金銭的な清算

従業員のご遺族との関係で、未払賃金、(死亡)退職金、団体生命保険に基づく保険金、といった金銭的支払に絡んだ問題が発生することがあります。

未払賃金については、原則として、相続人であるご遺族に支払う必要があります。
但し、相続分に応じた支払をすればいいのか、それとも遺産分割協議の結果、単独で権利を取得した相続人に支払うのか、といった問題があります。会社として支払先を確認するためには登記簿謄本で相続人の確認をすることや、印鑑証明書などで遺産分割協議の成立を確認しなければならず、支払までに長期間を要する可能性もあります。
また、ご遺族が賃金の請求をしてきた場合には、7日以内に賃金の支払いをしなければなりません。
そこで、支払先がスムーズに決まる状況でなく、亡くなった従業員の預金口座も凍結されていない時点であれば、従前の振込先に支払うのが最も簡便で、間違いがない方法と考えられます。

一方、退職金は、社内の規程に従って支払うことになります。
会社によっては、死亡退職金に関する規程がある場合もありますが、その場合にも、受給権者や支払先の順位についての定めがあれば、それに従うことになり、そういった定めがない場合には、相続財産として、相続人間の協議によって支払先が定まることになります。

また、団体生命保険に基づき会社に支払われる保険金については、従業員の死亡等により多額の保険金を受領した会社から遺族に対する保険金の支払いが全くない、又はわずかな金額しか支払われないといったケースが問題となり、過去に訴訟となるケースが発生しましたが、最高裁判例(住友軽金属工業(団体定期保険第2)事件。最三小判平18.4.11労判915-51)では、会社には社内規定による給付額の支払を超える支払義務が認められないという結論に至っています。

(3)従業員の自殺について会社の責任が問われた時への備え

上述したように、自殺の原因が過重な業務にあった場合等、会社側に責任があるのではないか、ということは、遺族にとっては大きな関心事となります。

その点を遺族から問われた場合に備えて、会社側として、どのようなことをしておくべきでしょうか。
会社として実際に責任追及をされるかどうかとは別に、自殺の原因に過重な業務等、業務に関わる事実でないかということを調査することは、必須です。
具体的には、① 最低でも過去半年間の勤怠に関する記録(タイムカードや出退勤簿、ログ記録)の確認や、② 上司・同僚など関係者のヒヤリングを通じて、長時間労働の実態がなかったかどうかを確認します。
加えて、亡くなった従業員が担当していた業務の内容や、ハラスメントの有無、亡くなる前の従業員の健康状態を推知させる事実なども含めて調査・確認を行い、会社として従業員が亡くなる前に事態を予測して回避することができなかったかどうかを、把握する必要があります。結果を予測し、回避できた、と言える場合には、会社の責任が認められる可能性が高くなります。

遺族側が会社に対して説明を求めた場合には、このような調査の結果を踏まえた公正な評価に基づいた説明が行われる必要があります(但し、責任を否定するときでも、遺族の感情に配慮して説明することが求められます。)。

(4)遺族より労災申請があった場合の対応

遺族側が、自殺が業務に起因することを前提として労災申請を行った場合にはどう対応すれば良いでしょうか。

上記のような事実関係の調査を行った結果、会社として業務起因性を認める場合であればともかく、業務によるものであるとは考えられない、という結論に至ったときでも、労災申請には一定程度協力することが求められます。

具体的には、労災保険の請求書の事業主証明欄に、会社として認められる内容を付記して署名を行うことになります。場合によっては別紙として会社が認める事実関係を別途添付するなども認められるところです。

いずれにせよ、単に署名を拒否する、といった対応は、会社として誠意ある対応とは評価されないため、慎重に判断することが求められます。

ご相談は労務関係の紛争解決が得意な弁護士まで

弁護士法人本江法律事務所(福岡県弁護士会所属)は、福岡・天神を拠点として、多くの中小企業からのご相談やご依頼に対応してきた経験を踏まえて、迅速かつ的確に労務に関する各種ご相談に対応しています。
当事務所は、常にお客様最優先、労務関係の紛争でお困りの企業様に対して、誠意をもって対応をさせていただきます。
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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。

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