従業員による横領が発覚したときにどう対処するか【福岡で企業法務に強い顧問弁護士】

従業員による横領の相談例

建設業のA社では、近年、業績が落ち込む原因となっている赤字工事をなくそうと、過去の工事を検証していたところ、聞きなれない業者からの仕入れが計上されていたため、営業担当の従業員に追及をしたところ、架空の仕入れとして請求書を偽造し、ペーパーカンパニーを経由して、これまでに500万円以上を着服していたことが判明しました。
代表者は、この事実を知って激怒し、その従業員をすぐに懲戒解雇にしたいと言っていますが、法的に問題はないでしょうか。また、横領した金銭を返還させるためには、どのように進めたら良いでしょうか。

このようなケースで最初に検討すべきこと

相談例のケースはフィクションですが、こういった事例は、現実にもそれほど珍しいことではありません。長年に渡って着服が続いていたことが発覚したという場合もあるため、自分の会社ではそんなことは起こらないはずと思っていても、実は知らないだけかもしれません。

こういった事例が発生した場合、その従業員に今まで通り仕事を続けさせることは、被害額の拡大を招くことであるため、絶対に回避しなければなりません。
とはいえ、いきなり懲戒解雇だ、と処分の通知をしてしまうと、後から懲戒解雇は権利濫用だ、と言って「従業員たる地位確認」という裁判を起こされる可能性もあり、裁判に備えて慎重な対応をする必要があります。

まず重要なのは、その従業員による着服行為を裏付ける客観的な資料の収集、ということになります。
相談例のケースであれば、架空の請求書(原本)の確保、その従業員のPC上のデータ保全など、後日の訴訟を想定した場合に必要と考えられる資料が収集の対象となります。
こうして得られた資料は、その従業員が後日、横領行為を(裁判上で)否定した場合に備えて必要です。

その間、件の従業員には出勤停止の指示をしておくことによって、資料収集などはスムーズに進めることができるようになります。

懲戒解雇を行うことができるかどうか

客観的な裏付け資料がある場合で、懲戒解雇を行う場合、二つの要件を検討する必要があります。

(1)一つは、手続的な要件です。

従業員が行った横領行為が、就業規則や雇用契約書上の懲戒解雇(あるいは懲戒処分)の事由に該当することが必要です。

更に、その従業員に事実関係の確認を行い、弁明の機会を与えることが原則として必要とされています。

(2)もう一つは、懲戒解雇という厳しい処分を行うことが権利濫用に該当しないことが必要です。

懲戒解雇は、解雇権の行使と同時に懲戒権の行使という側面があり、いずれも「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とされています(労働契約法第15条、第16条)。

例えば、従業員が、1年半の期間に100回に渡り、社用車での出張にもかかわらず公共交通機関を利用したと偽って50万円超の旅費等の不正受給を行ったために、会社が懲戒解雇とした事案において、一審は、会社の金品詐取は重大な不祥事であって、使用者との信頼関係を大きく損ねることから、懲戒解雇が客観的・合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないということはできない(懲戒解雇は有効)としましたが、控訴審では、同様の非違行為を行った別の従業員に対する処分が停職3か月であったこととの均衡を欠くとして、懲戒解雇を無効とする逆転判決が出ました(日本郵便(北海道支社)事件・札幌高裁令和3年11月17日判決)。

このように、懲戒解雇が権利濫用として無効にならないか、という判断は、ケースごとの具体的な事情に照らした判断となるため、慎重に検討する必要があります。

懲戒解雇以外の選択肢も検討するべき

このような懲戒解雇を行うための法的なハードルの高さを考えると、それよりも要件として緩やかな別の選択肢も視野に入れる必要があります。

一つは、普通解雇です。

懲戒解雇として無効となる場合であっても、普通解雇としては有効とされる可能性は否定できず、裁判例でも、上司や先輩の指導に反発して多くのトラブルを起こし、遂には通院時間を業務扱いするように上司に迫るも聞き入れられなかったことを理由に自傷行為に及んだ従業員に対する解雇の事案で、懲戒解雇としては無効だが、普通解雇として有効と認めた事例などがあります。

横領の事例でも、損害額が多額でない場合や、本人が反省して金銭の返還を申し出ているようなケースでは、普通解雇を選択することがベターであると思われることがあります。

もう一つは、退職勧奨による合意退職です。

合意による退職であれば、解雇濫用法理により無効とされるリスクが回避できる上、金銭返還の合意も併せて締結することができます。早期返還を申し出ている場合や、退職後の再就職を容易にすることで現実の回収可能性を高くすることが優先だと考えた場合などは、こういった選択が合理的だと思われます。

従業員の横領事案、早めに専門家に相談を

以上のように、決して対岸の火事ではない従業員の横領・着服行為について、常に懲戒解雇ができるかというと、それほど単純ではない、と言うことができます。

会社として処分を決める段階は勿論、その前の事実確認や弁明の機会の時点でも、会社側で労働問題に取り組んだ経験が豊富な弁護士に相談することによって、的確な事実把握が可能となり、その後の的確な処分選択が可能になります。

福岡・天神で企業顧問弁護士として豊富な経験のある本江法律事務所は、会社側からの相談に特化して、従業員の横領事案や問題社員の解雇事案についても、多くの経験があります。是非、お早めにご相談下さい。

福岡で使用者側の労働問題に強い弁護士

従業員による横領に関するご相談は、実績のある弁護士にお任せください。

「労働問題に強い弁護士」に相談するのはもちろん、普段から就業規則など自社の労務環境の整備を行っておくために使用者側の労働問題に強い弁護士にすぐに相談できる体制にもしておきましょう。

顧問弁護士に関する具体的な役割や必要性、相場などの費用については、以下の記事をご参照ください。

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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
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