職務怠慢な社員を辞めさせることができるか|福岡の顧問弁護士

職務怠慢な社員に関する相談事例

建設業や介護施設など多角的な事業を展開するA社に、営業部門として中途採用した社員Bは、期待されたような営業成績を上げることができず、社内での評価は年々低下してきました。その上、上司からの指摘に対して言い訳や反抗を繰り返し、度々、遅刻をする始末です。職務怠慢との指摘にも、改める様子が見られません。しかも、Bが仕事と称した外出時に、喫茶店に入り浸ったり、女性と遊びに行ったりしている、といった噂まで流れ、遂には同僚の中にモチベーションを失い、退職を考えている人も現れてしまいました。

人事部門としては、社長からも了解を貰い、解雇や退職勧奨を検討しているとのことですが、問題ないでしょうか。

ローパフォーマーを退社させるには

ローパフォーマー社員には、上記相談のような職務怠慢の他、やる気はあっても能力的に著しく不足している社員や、私傷病により仕事に支障が生じているといったケースもあります。

どちらも会社の労働生産性を引き下げる要因と考えると、放置できないことと捉えるのも当然ですが、日本の裁判例は、いわゆる「解雇権濫用法理」という解雇権を制限する考え方が長く支配的で、現在では労働契約法16条にも「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。

したがって、会社側としては職務怠慢な社員に対しても解雇には慎重にならなければいけません。後日、裁判などで解雇が無効となると、その社員の過去の賃金を遡って支払わなければならない(これを「バックペイ」と言います。)ばかりか、その後も賃金請求権が発生し続けるということになりかねないためです。裁判には2,3年かかることも良くあるため、数年分の賃金額を支払わなければならない、というリスクを負うことになります。

職務怠慢な社員の解雇に関する裁判例

裁判所が解雇権を制限する方向で慎重に判断する傾向がある、ということは、言い換えると、解雇以外の方法で問題を解決することができなかったか(解雇回避の努力をしたか)ということが問われるということです。

裁判例として、《日本ヒューレット・パッカード事件 東京高判平成25年3月21日》があります。

これは、約5年にわたって業務指示違反や不適切な言動を繰り返してきた営業担当社員が、人事評価で最下位の評価を受け、顧客からのクレームを引き起こし、異動に対して異議を述べて出社を拒否したり、退職勧奨にも応じず、むしろ上司からのパワハラを批判するメールを人事部に出したり、といったことをした結果、解雇された事案で、裁判所は、「上司等からの注意、指導が行われてきたにもかかわらず改善が見られなかった」ことを踏まえて解雇を有効と判断しました。

この事案では、単独では解雇事由に当たらない程度の事実が多数積み上げられ、その結果、解雇が有効ということになっていますが、勤務態度の悪さをメールのような裏付けで残していたこと、上司の指導も月に1回、記録が残る形で行われてきたこと、といった会社側としての慎重さが十分に見受けられる事案でした。

この裁判例からは、もし解雇をするとしても、それなりに長期に渡って、その準備としての指導とその不奏功ということを繰り返していく必要がある、という受け取り方もできます。そういう意味で、この裁判例からも、職務怠慢な社員を解雇することは難しい、と理解しておいた方が良さそうです。

解雇以外の方法によること

裁判例の考え方を理解すると、基本的に解雇が最終手段という認識から出発することになります。

冒頭の相談事例でも、すぐに解雇をするつもりで検討するのではなく、まずはそれ以外の方法で事態を改善することができないか、ということを検討するべきでしょう。

その順序として、まずは職務の内容を変えること、つまり配置転換を検討することが挙げられます。特に様々な部門や関連会社などがあれば、そういった可能性が広がります。配置転換も、配転先の社員や当人の同意がなければ、かえって他のトラブルを引き起こしかねないため、慎重に行う必要があります。

配置転換が難しいということであれば、当人に自主的な退職を迫るということも選択肢となります。退職勧奨を行うときも、社員本人に対する強制とならないように注意する必要があります。そのためには、単に退職を勧めるだけではなく、現在までの社員本人のパフォーマンスに対する認識を問いかけ、その会社内での意味合いについての理解を求めるとともに、改善の見込みがあるかどうかを改めて尋ね、その見込みに対する裏付けや期限を求めるなど、建設的な展開も残した形での面談が必要と思われます。また、その拘束時間や頻度、面談の人数といったシチュエーションにも気を配って行う必要があります。

退職勧奨に応じないという場合には、やむを得ない手段として解雇が選択肢として浮上することになります。

もちろん、配置転換、退職勧奨、解雇という3つの選択肢しかない、というわけではありませんが、ローパフォーマー社員の問題は、最低限、これくらいの慎重さが求められると考えて間違いはありません。

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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。

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