濫用的な年休申請への正しい対処の仕方とは?|福岡で企業法務に強い顧問弁護士

年休申請があれば、使用者は年休の取得を認めなければならない?

年休(年次有給休暇)の取得は労働者の権利ですが、その申請が勤務日直前などに行われたり、自分勝手な理由で行われる場合でも、使用者は年休の取得を認めなければならないのでしょうか。

結論としては、一定の要件の下、使用者が「時季変更権」を行使し、申請された勤務日の年休扱いを認めないとすることができます。
また、あまりに身勝手な目的の年休申請が無効とされる余地もあります。
では、どのような状況であれば、使用者から労働者に対し、年休の取得を認めないとすることが許されるでしょうか。

年次有給休暇に関する労働者の権利

労基法が定める年次有給休暇の制度は、労働者が健康で文化的な生活を実現するために、法定または所定の休日のほかに、毎年、一定日数の休暇を有給で保障する制度です。
従業員それぞれが生活様式に合わせて休暇を取ることで、ストレスがコントロールでき、疲労による業務効率低下を防止し、ひいては定着率の向上にもつながると考えられます。

この年次有給休暇を取得する権利は、法律で定められた要件を充足すれば当然に発生する労働者の権利で、特定の日を年休とすることを申請して権利行使します。これを「時季指定権」と言い、申請すれば使用者の承諾がなくとも年次有給休暇が成立するのが原則です。
つまり、年休を利用していつ休むかは、原則として労働者の側が自由に決定できるとされています。

2019年4月施行の労基法改正により、年休取得の権利のある労働者には必ず一定の年休を取得させなければならない、という使用者の義務が定められ、その権利のが重要であることは一般にも認知されるようになっています。

労働者の年休時季指定に対する使用者の権利

一方で、労働者が指定した時季に休暇を取ることが事業の正常な運営を妨げる場合、使用者は、その時季を変更する「時季変更権」を行使することができるとされています(労基法39条5項但書)。
職場によっては年休取得に承認を要する、とされていますが、それはこの「時季変更権」を行使するという形で不承認とする場合がある、という意味に捉えることができます。

とはいえ、「事業の正常な運営を妨げる」場合でなければ、時季変更権を行使することができません。どのような場合がこれに当たるかは、使用者が代替要員を確保する努力を怠っていないかどうかも含めて判断されると考えられます。
そのため、使用者は、労働者が指定した日に休暇を取ると人員が不足するといった状況でも、代替要員が確保できないかどうかを調整したうえで、初めて時季変更権を行使できるということになります。

年休取得のためのルール策定の必要

そこで、使用者にとっては、労働者が時季を指定して年休取得を申請したときに、適切に代替人員を確保する策を講じた上、必要な場合には時季変更権を行使することができるような形に制度を設計しておくことが必要です。
つまり、その観点から、年休取得申請についてのルールを就業規則に定めておく必要があります。

ポイントは、少なくとも年休指定日の何日前までに申請が必要かというところです。
代替人員を確保するには、少なくとも2、3日前としておいた方がいいと思われます。もちろん、できるだけ早い時期に申請するようにするべきですが、あまり厳しくすると、結果としてルールが守られず、有名無実化してしまいかねないので、注意が必要です。

勤務開始直前に年休の申請がなされた場合の対応

例えば、就業規則上に年休の取得申請は指定しようとする日の2日前までに行うものという条項を設けている会社で、当日になって年休取得の申請がなされたような場合に、どのような取扱いをするべきでしょうか。

単にルールに反するということだけで時季変更権を行使することには問題があり、この場合でも、人員が不足するかどうか、代替要員が確保できるか、ということを検討することは必要です。
しかし、それが就業規則の定めから、直前の申請の場合には代替要員確保は事実上困難ということが前提とされているとも言え、使用者として時季変更権の行使をしやすい状況と思われます。

例えば、その労働者が、代替要員確保が難しいと分かっていながら、敢えて直前に申請したと思われるような場合には、そうした申請は時季指定権の濫用とも思われ、使用者の時季変更権の行使が正当と認められやすくなるでしょう。

一方で、従来から直前の申請でもほとんど年休と認めてきたような職場であれば、使用者が急に就業規則を持ち出して時季変更権を行使することは、使用者の時季変更権の行使が濫用として認められない、ということになりそうです。

争議行為の目的や、特定の業務への就労を拒否する目的での年休申請

年休の取得は労働者の自由で、原則として、その理由を問うことなく取得させることが必要です。
基本的には、使用者として、労働者の年休取得の目的を指摘して時季変更権を行使することは控えなければなりません。

一方で、ストライキに参加する目的や、早朝・深夜の業務など、特定の業務を拒否するために取った年休については、裁判所も濫用的な時季指定とみて、権利濫用として年休は無効だと判断したケースがあります。
年休制度の趣旨から考えれば、労働者の休養による疲労回復・健康維持といった目的に著しく反して、むしろ業務の運営を阻害することを目的としたような年休取得に対しては、厳しい見方がされていると言えます。

年休の取得による不利益取扱いの禁止

使用者は、「有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。」とされ、年休取得に対する不利益取扱いが禁止されています(労基法136条)。
その意味は、精皆勤手当や賞与額の算定等に際して、年休取得日を欠勤と取り扱うなどといった不利益な取り扱いをしてはならない、ということです。昇給・昇進の算定に際して、年休が取得されていることを不利に考慮する、といったことも同様に禁止されるところと思われます。

但し、年休取得に際して定められた事前申請のルールを守らない、といった事由は、服務規律に反するという形で労働者の昇給等の関係で不利に考慮されることも許されると考えられます。

業務効率を上げる労務管理のために専門家の支援を

年休に関する労務管理は、法的な紛争としては大きなものではありませんが、職場の業務効率や人間関係といった目に見えずらい部分で重要な課題と考えられます。
こういった問題に対して、労働法を踏まえて正しい判断をしていくことは、法務に十分な人員を配置できる会社でなければ難しいことだと思います。
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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。

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