メンタル不調の従業員に休職を命じるタイミングと手順——拒否された場合の対応も解説

「この社員、明らかに様子がおかしい。でも本人は出勤すると言い張っている。どうすればいいのか」——メンタル不調が疑われる従業員への対応で、会社が最初に直面するのがこの状況です。

休職制度は、解雇回避のための重要な手段であると同時に、発令のタイミングや手順を誤ると会社側が法的リスクを抱えることになります。本コラムでは、メンタル不調が疑われる従業員に対して休職を命じる際の法的根拠・手順・よくある失敗を、使用者側の弁護士として解説します。

1.休職命令の法的根拠——就業規則の規定が不可欠

休職制度は法律上の義務ではなく、就業規則によって設けられる任意の制度です。したがって、就業規則に休職命令の根拠規定がなければ、会社は従業員に休職を命じることができません

就業規則の要件を満たさない状態で休職命令を発令した場合、その命令は無効と判断されるリスクがあります。就業規則には、休職事由(例:傷病による欠勤が〇日以上継続した場合)・休職期間・休職中の賃金の取り扱い・期間満了時の取り扱いを明確に定めておく必要があります。

また、休職命令は業務命令の一種ですが、無制限に認められるわけではありません。他の業務への配置転換など、会社として取りうる代替措置の検討を経ずに休職命令を発令した場合、権利の濫用として無効と判断される可能性があります。

2.「休職させずに解雇」は最も危険な対応

メンタル不調を抱える従業員が無断欠勤を続けている場合、「これ以上は無断欠勤として懲戒処分・解雇もやむなし」と判断したくなる気持ちはわかります。しかし、これは法的には非常に危険な対応です。

最高裁判所は、日本ヒューレット・パッカード事件(最二小判平成24年4月27日)において、精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、使用者として精神科医による健康診断を実施したうえで、その診断結果に応じて治療を勧め、休職等の処分を検討し経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく直ちに懲戒処分を行うことは「精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い」と判示しました。

つまり、休職制度があるにもかかわらずそれを使わずに解雇・懲戒処分を行った場合、処分が無効となるリスクが高まります。休職命令の発令は、会社が解雇回避努力を尽くしたことの証明としても機能します。

3.休職命令を発令するまでの手順

① 欠勤・不調のサインを記録する

遅刻・早退・欠勤の頻度、業務上のミスの増加、言動の変化などを客観的な記録として残します。「なんとなく様子がおかしい」という印象ではなく、具体的な事実の記録が後の判断の根拠になります。上司・人事担当者が日付・内容を記録しておくことが重要です。

② 受診の勧奨・産業医面談の実施

従業員に対して医療機関の受診を勧め、可能であれば産業医面談を実施します。ここで注意が必要なのは、受診するかどうかは本人のプライバシーに関わる事項であり、強制はできないという点です。ただし、就業規則に「会社が必要と認めるときは、指定する医師の診断を受けることを命じることができる」旨の規定があれば、受診命令を発令することが可能です。受診命令に正当な理由なく従わない場合は、就業規則上の懲戒事由に該当しうることを伝えることも有効です。

③ 診断書の取得と内容の確認

従業員が主治医の診断書を提出した場合、その内容を確認します。「うつ状態・要休養」といった記載は多いですが、休職の必要性・期間の見通し・業務上の起因性(業務起因か私傷病か)の観点で内容を精査します。主治医の診断書だけで判断するのではなく、産業医の意見も踏まえて会社として判断することが重要です。

④ 休職命令書の交付

就業規則の要件を確認したうえで、休職命令書を書面で交付します。口頭のみの通知は後日「言った・言わない」の争いになるため、必ず書面で行います。命令書には、休職開始日・休職期間・休職中の連絡方法・復職の手続き・期間満了時の取り扱いを明記します。

なお、休職期間は少なくとも30日以上とする必要があります。休職命令が実質的に解雇予告と同視される場合があり、その場合は解雇予告手当(労働基準法第20条)の支払い義務が生じる可能性があるためです。

4.従業員が休職を拒否した場合

「休職したくない」「まだ働ける」と主張して休職命令を拒否する従業員への対応は、実務上よく問題になります。

就業規則に休職命令の根拠規定がある場合、休職命令は業務命令の一種ですので、正当な理由のない拒否は業務命令違反として懲戒事由に該当しうることを伝えることが有効です。ただし、即座に懲戒処分に踏み切るのではなく、まずは面談を重ね、受診勧奨・産業医面談を経たうえで命令を発令するという手順が重要です。

一方、休職命令が権利の濫用として無効となる場面もあります。従業員が「現在の業務はできないが他の業務なら遂行できる」と主張し、実際にそのような業務への配置が現実的に可能な場合、配置転換の検討を経ずに休職命令を発令することは不合理と判断される可能性があります。

会社の規模・業種・従業員の職種等を踏まえた判断が必要ですし、休職命令の目的がその従業員の健康を回復することにあると理解できるように説明を尽くしたことを記録しておく必要があります。

5.業務起因か私傷病か——最初に確認すべき重要な分岐

休職命令を発令する前に、メンタル不調の原因が業務上のものか(労災)、業務外の私傷病かを確認することが重要です。この分岐によって、その後の対応が大きく変わります。

業務上の疾病(労災)の場合、療養のために休業する期間およびその後30日間は解雇が禁止されます(労働基準法第19条)。また、会社の安全配慮義務違反(労働契約法第5条)が問われる可能性もあります。長時間労働・ハラスメントがあった場合は業務起因性が認定されやすくなるため、発症前の勤務状況・労働時間・職場環境を早期に確認・記録しておくことが重要です。

私傷病の場合は休職制度を活用して雇用を継続しながら回復を待つことになりますが、休職期間満了後も回復しない場合の自然退職・解雇については別途検討が必要です。

まとめ

  • 休職命令の根拠は就業規則にあり、規定がなければ命令できない。要件・期間・期間満了時の取り扱いを明確に定めておくことが前提
  • メンタル不調が疑われる状態で休職させずに解雇・懲戒処分を行うことは、日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁平成24年)の示す通り、処分無効のリスクが高い
  • 手順は「記録→受診勧奨・産業医面談→診断書確認→休職命令書の書面交付」。口頭対応のみは厳禁
  • 休職命令を拒否された場合も、業務命令違反として対応できるが、配置転換の検討を経ているかが問われる
  • 業務起因か私傷病かの確認が最初の分岐点。労災の場合は解雇禁止期間・安全配慮義務の問題が生じる

休職命令の発令から復職・期間満了まで、メンタル不調社員への対応は一つの判断ミスが大きな法的リスクにつながります。当事務所では、使用者側の立場から、休職命令の適法性確認・書面整備・復職可否の判断まで一貫してサポートしています。「どのタイミングで・どのように動けばいいか」と迷われた時点でご相談ください。

休職命令を発令した後の復職可否の判断については、「メンタル不調で休職した従業員の復職の可否」をご参照ください。

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2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。

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