休職期間満了・自然退職の有効要件——会社側が押さえるべき就業規則の設計と手順を弁護士が解説

「休職期間が満了したら、自動的に退職扱いにできる」——そう考えている経営者・人事担当者は少なくありません。確かに、就業規則上の自然退職規定は、そのように読めるものがほとんどです。
しかし、自然退職の効力が認められるかどうかは、就業規則上の規定があることを前提として、休職制度の設計の合理性に加え、満了時の復職可否の判断のプロセス・合理性によります。

本コラムでは、休職期間満了・自然退職の法的構造と有効要件を解説したうえで、会社側が実務上押さえるべきポイントを整理します。

1.休職制度の法的性質——「解雇猶予措置」という出発点

私傷病(業務外の傷病)による休職制度は、法律上の義務ではなく、就業規則によって設けられる任意の制度です(休職制度の根拠については、メンタル不調の従業員に休職を命じるタイミングと手順もご参照ください)。

裁判例は一貫して、私傷病休職制度を「解雇の猶予措置」として位置づけています。すなわち、傷病によって労務提供ができない状態にある従業員を直ちに解雇するのではなく、一定期間、療養・回復の機会を与える制度です。この出発点を理解しておくことが、以下のすべての議論の前提となります。

この性質から導かれる重要な帰結があります。休職期間が満了した時点で復職できない場合、会社が労働契約を終了させることは、解雇と実質的に同じ効果をもたらします。そのため、裁判所は自然退職規定の適用にあたっても、解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の趣旨を踏まえて、慎重な判断をすることになります。

2.自然退職規定の有効性——合理的な休職制度の設計が前提

休職期間満了時に復職ができなかったことにより自然退職として扱う場合には、一般的に就業規則上の休職制度の規程が存在することが前提となります(労基法第89条第10号)。就業規則の規定がない状態では、休職期間が満了したというだけでは労働契約が終了する根拠を説明できません。

就業規則上の自然退職規定の効力については、エール・フランス事件(東京地判昭和59年1月27日)が、休職期間満了で当然に復職となったと解した上で改めて解雇するという迂遠な手続を回避するものとして合理性を有する旨を判示し、規定として効力を有することは認められています。
ただし、同判決は同時に、「自然退職の規程の合理性の範囲を逸脱して」「解雇権の行使を実質的により容易ならしめる結果を招来することのないよう慎重に考慮しなければならない」とも述べ、解雇権濫用法理によって解雇が無効となるようなケースでは自然退職規定による退職も認められるべきでないという考え方を示しています。

例えば、休職期間を1カ月未満として、期間満了時に自然退職とした場合など、実質的に解雇予告期間の潜脱となるようなケースでは、そもそも規定自体の合理性が認められないと評価される可能性が高いと思われますし、規定自体は合理的でも、その運用次第では退職の効力が認められないケースがあり得ます。

自然退職規定の有効性を確保するためには、就業規則には、少なくとも以下の事項を明記しておくべきだと思われます。

  • 休職事由 「私傷病による欠勤が〇日以上継続した場合」など
  • 休職期間 休職事由や勤続年数に応じた期間設定が一般的
  • 復職の要件 「休職事由が消滅したとき」など
  • 休職期間満了時の取り扱い 「休職期間満了までに復職できないときは自然退職とする」など

3.「復職できない」の判断基準——最大の争点

自然退職をめぐる紛争の大半は、「休職期間満了時点で復職できる状態にあったかどうか」という点で争われます。会社側が「復職不可」と判断して自然退職扱いとしたのに対し、従業員側が「復職可能だった」として地位確認を求めるパターンです。

原則——従前の職務を通常の程度に行える健康状態

復職の要件として就業規則に「休職事由が消滅したとき」と規定されている場合、その意味は原則として「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したとき」と解釈されます。主治医が「復職可能」と診断書に記載したとしても、それだけで会社が復職を認めなければならないわけではありません。

主治医の診断は、日常生活が可能な程度の回復を意味することが多く、実際の職場での業務遂行能力とは必ずしも一致しません。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、主治医の判断と職場復帰の可否は別次元の問題であることが明記されており、産業医等による就労可能性の判断を経ることが推奨されています。

例外——軽易業務への配置が可能な場合(片山組事件)

ただし、原則には重要な例外があります。最高裁平成10年4月9日判決(片山組事件)は、次の場合には復職を認めるべきとしました。

「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務についての労務の提供が十全にできないとしても、その能力、経験、地位、当該企業の規模、業種、当該企業における労働者の配置・異動の実情および難易等に照らして当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務の提供をすることができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。」

つまり、従前の業務には戻れなくても、社内に配置可能な軽易な業務が存在し、従業員がその提供を申し出ている場合には、復職を認めるべきということです。この判断は、会社の規模・業種・配置の実情によって結論が変わります。中小企業の場合、代替業務の存在が認められにくく、会社側に有利な判断がされやすい傾向があります。

産業医の意見と主治医の意見が対立する場合

実務上よく問題になるのが、主治医が「復職可能」と判断しているのに、産業医が「復職不可」と判断する場面です。裁判例は、一般的に産業医・会社指定医の意見を重視する傾向があります。ただし、産業医の判断が合理的根拠を欠く場合や、会社が産業医面談の機会を設けなかった場合は、会社側の判断が否定されることがあります。

就業規則に「会社が指定する医師の診断を受けることができる」旨の規定を設けておき、産業医面談・会社指定医の受診を経て判断する手順を確立しておくことが重要です。

4.自然退職が無効とされるリスク——裁判所が注目する4つのポイント

自然退職の効力が否定された裁判例に共通するのは、以下のいずれかの問題です。

① 復職可否の判断プロセスが不十分

従業員が復職を申し出た際に、会社が産業医面談・復職審査の機会を設けないまま「復職不可」と判断した場合、自然退職が無効とされるリスクがあります。東京高裁平成29年11月15日判決では、会社が産業医による復職面談を実施し、客観的な医学的根拠に基づいて復職不可と判断した事例で、自然退職の有効性が認められています。逆に、こうした手順を踏まないケースでは無効とされやすくなります。

② 軽易業務の検討を怠った

片山組事件の枠組みから、会社側が「軽易業務に配置する可能性を検討したか」という点は必ず問われます。検討した事実・検討の結果として配置が現実的に困難であることを記録しておくことが重要です。

③ 業務上の傷病と混同した

労働基準法第19条は、業務上の傷病による療養期間中およびその後30日間の解雇を禁止しています。裁判例の中には、この規定を自然退職にも類推適用したものがあります(社会福祉法人県民厚生会ほか事件・静岡地判平成26年7月9日など)。業務起因性が争われる場面では、自然退職の前提として、傷病の業務起因性の有無を慎重に確認する必要があります。

④ 通算規定の不備による抜け穴

一度復職した後、短期間で同一または類似の傷病で再び休職する「リセット問題」があります。就業規則に「同一または類似の傷病による休職期間は通算する」旨の規定がなければ、復職と休職を繰り返すことで実質的に無期限の休職が可能となってしまいます。通算規定の有無は就業規則設計の重要なポイントです。

5.休職期間満了前後の実務手順

① 満了の2〜3か月前——予告と復職見込みの確認

休職期間の満了が近づいた段階で、従業員に対して書面で以下を通知します。

  • 休職期間満了日
  • 復職のための手続き(主治医の診断書提出・産業医面談の日程等)
  • 期間満了までに復職できない場合の取り扱い(自然退職となる旨)

この通知を書面で行い、記録を残しておくことが、後日の紛争対応において会社側の誠実な対応の証拠になります。

② 復職申出への対応——産業医面談の実施

従業員から主治医の「復職可能」診断書が提出された場合、産業医による面談・就労可能性の判断を経たうえで、会社として復職可否を決定します。主治医の診断書だけで即座に復職を認める必要はありませんが、産業医面談の機会を設けることは不可欠です。

産業医面談にあたっては、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が定める5ステップ(①病気休業開始及び休業中のケア→②主治医による職場復帰可能の判断→③職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成→④最終的な職場復帰の決定→⑤職場復帰後のフォローアップ)を参考に、組織的な手順を設けておくことが推奨されます。

③ 復職不可と判断した場合——記録化と通知

産業医の意見・会社の判断根拠を文書化したうえで、従業員に対して書面で「休職期間満了日をもって就業規則〇条により自然退職となる」旨を通知します。自然退職は解雇と異なり、解雇予告・予告手当の問題は生じません(ただし、実態として解雇と評価される場合には問題となりえます)。

なお、休職期間満了時点で復職審査が終わっていない場合でも、審査を継続したうえで最終的に復職不可と判断したときは、休職期間満了日に遡って自然退職の効力を主張できるとした裁判例があります。この場合も、審査を途中で打ち切るのではなく、適切に手続きを尽くしたことを記録しておくことが重要です。

6.自然退職後に従業員から争われた場合

自然退職扱いに納得しない従業員が、労働審判または訴訟で地位確認・未払賃金を請求するケースが増えています。会社側の防御として重要なのは以下の点です。

  • 就業規則に自然退職規定が明確に定められていること
  • 休職期間満了の予告を書面で行っていること
  • 産業医面談・復職審査のプロセスを経ていること(記録が残っていること)
  • 軽易業務への配置可能性を検討したこと(中小企業では現実的に困難な理由も含め記録)
  • 業務起因性のある傷病でないこと(または業務起因性が認められる場合は労基法第19条との関係を確認済みであること)

これらの記録が整っていれば、労働審判・訴訟においても会社側の主張が認められる可能性は相当程度あります。逆に、記録が不十分な場合は、自然退職規定があっても無効とされるリスクが高まります。

自然退職をめぐるトラブルが労働審判に発展した場合の初動対応については、「労働審判を申し立てられた会社側の対応」をご参照ください。

まとめ

  • 休職制度は「解雇猶予措置」。休職期間満了による自然退職にも、解雇権濫用法理の趣旨が及ぶことを前提に設計・運用する
  • 自然退職規定は就業規則に明記することが絶対的前提。休職事由・期間・復職要件・満了時の取り扱い・通算規定を整備する
  • 復職可否の判断基準は「従前の職務を通常の程度に行える健康状態」が原則。ただし軽易業務への配置可能性(片山組事件)は必ず検討する
  • 主治医の「復職可能」診断書だけでは復職を認める義務はない。産業医面談を経た会社としての判断が重要
  • プロセスの記録化——満了予告書・産業医の意見書・復職審査の経緯——が、紛争時の最大の防御手段になる
  • 業務起因性のある傷病の場合は労基法第19条(療養期間中の解雇禁止)との関係を確認する

当事務所では、休職期間満了・自然退職をめぐるトラブルの予防(就業規則の整備・手順の確立)から、実際に地位確認請求を受けた場合の対応まで、使用者側の立場で一貫してサポートしています。「期間満了が近づいているが手順に不安がある」という段階でのご相談が、最もリスクを低く抑えることができます。

復職可否の判断については「メンタル不調で休職した従業員の復職の可否」もあわせてご参照ください。

Website |  + posts

2006年弁護士登録以来、企業法務、事業再生・債務整理、税務関係、交通事故、消費者事件、知的財産権関係、家事事件(相続・離婚その他)、
その他一般民事、刑事事件、少年事件に取り組む。講演実績は多数あり、地域経済を安定させる、地域社会をより良くしていくことに繋がる。
こう確信して、一つ一つの案件に取り組んでいます。

※日本全国からのご相談に対応しております。

取扱分野
福岡市の顧問弁護士相談
解決事例
お客様の声

お気軽にお問合せ、ご相談ください。 お気軽にお問合せ、ご相談ください。 メールでのご相談はこちら