就業規則の作成・変更手続きの完全ガイド——過半数代表者の選出から周知まで、手続きの瑕疵が効力に与える影響を弁護士が解説

就業規則を変更したが、手続きが適正でなかったために、いざというときに効力を主張できない——実務ではこうした事態が起こりえます。就業規則の作成・変更には労働基準法が定める一連の手続きがあり、どの手続きを欠くとどのような影響が生じるのかは、段階ごとに異なります。

本コラムでは、就業規則の作成・変更手続きの全体像を、法令上の根拠と実務上の落とし穴を含めて整理します。手続きの各段階で何が求められ、瑕疵があった場合に効力にどう影響するのかまで、この記事だけで確認できる構成としています。

1.前提の確認——作成義務の対象と記載事項

(1) 作成・届出義務の対象

就業規則の作成・届出義務があるのは、常時10人以上の労働者を使用する事業場です(労働基準法第89条)。ここで注意すべき点が3つあります。

① 「企業単位」ではなく「事業場単位」
本社・支店・工場・店舗などがそれぞれ独立した事業場として扱われます。全社で30人いても、各拠点が5人ずつであれば作成義務は生じません。逆に、本社だけで10人以上いれば本社について作成義務が生じます。

② 「常時10人以上」は常態で判断
繁忙期のみ10人を超えるといった一時的な変動は含まれません。常態として10人以上かどうかで判断します。

③ 労働者数にはパート・アルバイトも含む
正社員だけでなく、パートタイム労働者・アルバイト・有期雇用労働者・嘱託・出向者など、雇用されているすべての者が算入されます。

なお、10人未満の事業場であっても、就業規則がなければ懲戒処分・休職命令などの根拠を欠くことになるため、作成しておくことが強く推奨されます。

(2) 絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項

就業規則に記載すべき事項は、労働基準法第89条により2種類に区分されています。

絶対的必要記載事項(必ず記載しなければならない)

  • 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の場合の就業時転換に関する事項
  • 賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む)

相対的必要記載事項(定めをする場合には記載しなければならない)

  • 退職手当(適用される労働者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払時期)
  • 臨時の賃金等(賞与)、最低賃金額
  • 労働者に食費・作業用品その他を負担させる定め
  • 安全・衛生に関する定め
  • 職業訓練に関する定め
  • 災害補償・業務外の傷病扶助に関する定め
  • 表彰・制裁(懲戒)の種類・程度に関する定め
  • その他、当該事業場の労働者すべてに適用される定め(休職制度など)

実務上重要なのは、懲戒処分と休職制度が相対的必要記載事項であるという点です。これらは「定めをする場合に記載が必要」なものですが、逆に言えば、就業規則に記載がなければ懲戒処分も休職命令も行うことができません。

2.作成・変更手続きの5ステップ

就業規則の作成・変更は、次の5つの段階を経て進みます。

ステップ1:就業規則案の作成

必要記載事項を網羅し、法令・労働協約に反しない内容で案を作成します。労働基準法第92条第1項により、法令または労働協約に反する就業規則の定めは無効となります。

ステップ2:過半数代表者の選出

事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があれば、その労働組合が意見聴取の相手方になります。過半数組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)を選出する必要があります。

過半数代表者となるには、労働基準法施行規則第6条の2第1項により、次の2つの要件をいずれも満たす必要があります。

① 労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者でないこと
就業規則について意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施される投票・挙手等の方法により選出された者であり、使用者の意向によって選出された者でないこと

「投票、挙手等」の「等」には、労働者の話し合い、持ち回り決議など、労働者の過半数がその者の選任を支持していることが明確になる民主的な手続きが含まれます(昭和63年1月1日基発第1号)。

なお、「過半数」の母数となる労働者には、管理職・パートタイマー・アルバイト・嘱託・契約社員・出向者など、当該事業場の在籍者すべてが含まれます。管理監督者は過半数代表者にはなれませんが、母数には算入される点に注意が必要です。

ステップ3:意見聴取と意見書の取得

就業規則の作成・変更にあたっては、過半数組合または過半数代表者の意見を聴かなければなりません(労働基準法第90条第1項)。届出の際には、この意見を記した書面(意見書)を添付する必要があります(同条第2項)。

ここで実務上よく誤解される点があります。法が求めているのは「意見を聴くこと」であって、同意を得ることではありません。過半数代表者が反対意見を述べた場合であっても、意見を聴いた事実がある以上、届出は受理され、変更手続きを進めることができます。

もっとも、反対意見が出ているにもかかわらず一方的に変更を進めることは、後の紛争リスクを高めます。実務的には、反対意見の内容を検討したうえで、折衷的な内容に修正することを検討するのが望ましい対応です。特に労働条件の不利益変更を伴う場合、労使間の交渉経緯は変更の合理性を判断する考慮要素の一つとなります。

また、過半数代表者が意見書への署名押印を拒否した場合であっても、意見を聴いたことが客観的に証明できる限り、届出は受理される取り扱いとされています(昭和23年5月11日基発第735号、昭和23年10月30日基発第1575号)。この場合、意見聴取を行った日時・方法・経緯を記録に残しておくことが必要です。

ステップ4:労働基準監督署への届出

作成・変更した就業規則は、意見書を添付して所轄の労働基準監督署長に届け出ます(労働基準法第89条)。届出は事業場ごとに行う必要があり、本社で一括して届け出る場合は、一定の要件を満たす必要があります。

ステップ5:労働者への周知

使用者は、就業規則を労働者に周知させなければなりません(労働基準法第106条第1項)。周知の方法は労働基準法施行規則第52条の2により、次のいずれかとされています。

  • 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること
  • 書面を労働者に交付すること
  • 磁気テープ・磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること(社内サーバー・共有フォルダ等への保存と閲覧環境の整備)

実務上は、メール等での通知や社内掲示、共有フォルダへの保存などの方法により、労働者が実際に内容を確認できる状態にあったことの証跡を残せるかどうかが重要です。過度に形式的に考える必要はありませんが、後日「知らなかった」と主張されないよう、通知の記録は保存しておくべきです。

3.手続きの瑕疵が効力に与える影響——ここが最も重要

就業規則の手続きに瑕疵があった場合、その影響は瑕疵の種類によって大きく異なります。この区別を理解しておくことが、実務上最も重要です。

(1) 周知を欠く場合——効力そのものが生じない

最も重大な瑕疵は、周知の欠如です。フジ興産事件(最判平成15年10月10日)は、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、その内容を、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が採られていることを要すると判示しました。

この事案では、会社は労働者代表の同意を得て就業規則を作成し、労働基準監督署への届出も済ませていました。それにもかかわらず、就業規則が事業場に備え付けられていなかった点が問題とされ、周知手続きの有無を認定しないまま懲戒解雇を有効とした原審の判断が破棄されています。

この判例法理は労働契約法第7条に立法化されており、同条にいう「周知」とは、労働者が知ろうと思えば知ることができる状態に置かれたことで足りる(実質的周知)と解されています。逆に言えば、この状態が確保されていなければ、就業規則は労働契約の内容とならず、懲戒処分・休職命令などの根拠として機能しません。

実務上、手続面の瑕疵として最も問題になりやすいのが、この備付け・周知の欠如です。就業規則を作成・変更しても、それが従業員の目に触れる場所に置かれていなければ、法的な意味がありません。

(2) 届出を欠く場合——効力発生要件ではない

労働基準監督署への届出は、就業規則の効力発生要件ではないと解されています(NTT西日本事件・京都地判平成13年3月30日)。使用者が就業規則を作成し、従業員一般にその存在・内容を周知させるに足る相当な方法を講じていれば、届出をしていなくても関係当事者を拘束する効力を生じます。

ただし、届出義務違反自体は労働基準法違反であり、30万円以下の罰金の対象となります(労働基準法第120条第1号)。実務上、届出漏れや古い就業規則しか届け出ていないケースは相当数見受けられますが、効力への直接的な影響は限定的である一方、労働基準監督署の調査が入った際には是正勧告の対象となります。

(3) 意見聴取を欠く場合——効力への直接の影響は限定的

意見聴取を行わなかった場合も、届出と同様、それ自体が直ちに就業規則を無効とするものではないと解されています。ただし、労働基準法第90条違反として罰則の対象となるほか、労働条件の不利益変更を伴う場合には、変更の合理性を判断する際の考慮要素として不利に働きます。

(4) 過半数代表者の選出手続きに瑕疵がある場合

特定の従業員にだけ声をかけて代表者になってもらう、会社が指名する、社内の親睦会の代表者を自動的に労働者代表として扱うといった選出方法は、労働基準法施行規則第6条の2第1項第2号の要件を満たさず、適法な選出とはいえません。

この場合、意見聴取が適法に行われていないことになるため、上記(3)と同様の問題が生じます。さらに、同じ過半数代表者が36協定の締結当事者にもなっている場合、36協定自体が無効となり、時間外労働が違法となるという重大な帰結を招きます。過半数代表者の選出手続きの適正さは、就業規則だけでなく労使協定全般に影響する論点です。

4.実務チェックリスト

自社の就業規則について、以下の項目を確認してください。

【作成・記載内容】

  • 常時10人以上の労働者を使用する事業場ごとに就業規則を作成しているか
  • 絶対的必要記載事項をすべて網羅しているか
  • 懲戒処分の種別・事由を定めているか(定めがなければ懲戒処分はできない)
  • 休職制度の要件・期間・満了時の取り扱いを定めているか
  • 法令・労働協約に反する内容が含まれていないか
  • 最新の法改正(パワハラ防止法・同一労働同一賃金・育児介護休業法等)に対応しているか

【手続き】

  • 過半数代表者を、投票・挙手等の民主的な手続きで選出しているか
  • 過半数代表者が管理監督者でないことを確認しているか
  • 選出手続きの記録(案内文・投票結果等)を保存しているか
  • 意見聴取を行い、意見書を取得しているか
  • 意見書に署名を得られなかった場合、意見聴取の事実を記録しているか
  • 変更のたびに労働基準監督署へ届け出ているか(最新版が届出済みか)

【周知】

  • 従業員がいつでも閲覧できる状態になっているか(掲示・備付け・共有フォルダ等)
  • 変更のたびに従業員へ通知しているか
  • 通知・周知の記録(メール送信履歴・掲示の写真・受領確認等)を残しているか
  • 事業場が複数ある場合、すべての事業場で周知されているか

まとめ

① 就業規則の作成義務は事業場単位で判断し、パート・アルバイトを含めて常時10人以上かどうかで決まる。懲戒処分・休職制度は相対的必要記載事項であり、記載がなければ実施できない。

② 手続きは「案の作成→過半数代表者の選出→意見聴取→届出→周知」の5段階。過半数代表者は管理監督者でないこと、民主的手続きによる選出であることが要件。

③ 意見聴取で求められるのは「意見を聴くこと」であり同意ではない。反対意見があっても変更は可能だが、実務上は折衷案の検討が望ましい。

④ 手続きの瑕疵の影響は種類によって異なる。周知を欠けば就業規則の効力そのものが生じない(フジ興産事件)。一方、届出・意見聴取の欠如は罰則の対象ではあるが効力発生要件ではない。

⑤ 過半数代表者の選出手続きの瑕疵は、就業規則だけでなく36協定の効力にも波及し、時間外労働が違法となるリスクを生じさせる。

就業規則は、作成して届け出れば足りるものではなく、周知され、実際の運用と整合していて初めて機能します。当事務所では、就業規則の作成・変更手続きの適法性の確認から、実際に効力が争われた場合の対応まで、使用者側の立場で一貫してサポートしています。「手続きが適正だったか不安がある」という段階でのご相談も承っています。

就業規則の整備の必要性については「就業規則を整備していない会社が直面するリスク」を、労働条件の不利益変更の実体的な要件については「労働条件の不利益変更——就業規則変更の合理性要件」をあわせてご参照ください。

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2006年、福岡県弁護士会に弁護士登録。
企業法務(使用者側での労務問題、契約書チェック、コンプライアンス体制の整備)、交通事故での損害賠償請求、相続、離婚などの家事事件、企業の事業再生・債務整理その他一般民事、刑事事件等に取り組む。
企業内の研修やセミナー開催の実績多数。
法律事務所として弁護士の質とサービスレベルの高さを磨き、地域経済、地域社会に貢献することを事務所の理念とする。

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