取締役を解任できるか——「正当な理由」の有無で報酬請求リスクが変わる。会社側弁護士が解説

取締役によるハラスメントが発覚した、任務懈怠で会社に損害が生じた、経営陣の内紛で意思決定が止まっている——役員をめぐるトラブルは、従業員の労務問題とは異なる法的枠組みで処理されます。

本コラムでは、会社側が取締役の責任を追及し、必要に応じて解任を検討する場面を中心に、実務上最も重要な論点である「解任の正当な理由」について詳しく解説します。

1.取締役は従業員ではない——委任関係という前提

取締役と会社の関係は、雇用契約ではなく委任契約です(会社法第330条、民法第643条以下)。この違いは、実務上きわめて重要な帰結をもたらします。

従業員の解雇には、客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要であり(労働契約法第16条)、解雇権濫用法理による厳格な制約を受けます。これに対して取締役の解任は、株主総会の普通決議によっていつでも行うことができます(会社法第339条第1項)。解任に理由は必要ありません。

ただし、ここに重要な留保があります。解任された取締役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。つまり、解任自体はできても、正当な理由がなければ金銭的な負担が生じるという構造になっています。

2.最大の争点——「正当な理由」の有無と損害賠償の範囲

取締役の解任を検討する相談を受けた際、実務上まず確認するのが解任理由です。「正当な理由がある」といえるかどうかによって、解任後に報酬相当額の請求を受けるかどうかが決まるためです。ここが実質的な勝負どころになります。

(1) 損害賠償の範囲——残任期分の報酬相当額

会社法第339条第2項にいう「解任によって生じた損害」とは、実務上、取締役を解任されなければ残存任期期間中および任期満了時に得られたはずの利益を指すと解されています。具体的には、解任された日の翌月から任期満了時までの報酬相当額が基本となります。

裁判例では、これに加えて役員賞与相当額・退職慰労金相当額が損害として認められた事例もあります(東京地判平成29年1月26日は、正当な理由の存在を否定し、残任期分の役員報酬相当額に加えて退職一時金相当額の賠償を認容しました)。

したがって、任期の残存期間が長い時期に正当な理由なく解任すると、会社が負担する金額は相当な額になりえます。逆に言えば、任期満了のタイミングで再任しない(重任させない)という選択であれば、そもそも解任にはあたらず、この問題は生じません。解任を急ぐ必要があるのか、任期満了を待てるのかという時期の見極めも、実務上の重要な検討事項です。

(2) 「正当な理由」が認められる典型的な場面

正当な理由として認められやすいのは、次のような事情です。

法令・定款違反行為——競業避止義務違反(会社法第356条第1項第1号)、利益相反取引(同項第2号・第3号)、その他の法令違反行為
職務執行における著しい不適任——経営判断として著しく不合理な行為により会社に損害を与えた場合
心身の故障——職務の執行に堪えない健康状態
不正行為——横領・背任・会社資産の私的流用など
ハラスメント行為——従業員に対するパワーハラスメント・セクシュアルハラスメントにより職場環境を悪化させ、会社の使用者責任リスクを生じさせた場合

⑤については、近年、会社が取締役の責任を追及する場面として増えている類型です。ハラスメント防止措置義務(労働施策総合推進法第30条の2)を負う会社としては、取締役によるハラスメントを放置すること自体がリスクとなるため、解任を含めた対応が必要になります。

(3) 「正当な理由」が認められにくい場面

他方、以下のような事情は正当な理由として認められにくいとされています。

・大株主・他の取締役との経営方針の対立
・単なる能力不足や実績不振(著しく不合理といえる程度に至らないもの)
・派閥争いや人間関係の悪化

経営方針の対立を理由とする解任は、株主が経営者を選ぶという会社法の建付けからは解任自体が可能ですが、正当な理由としては認められず、損害賠償の対象となる可能性が高くなります。

(4) 正当な理由の判断時点——解任時に客観的に存在していれば足りる

実務上重要な論点として、正当な理由の根拠となる事情は、解任の時点で客観的に存在していれば足りると解されています(東京地判平成30年3月29日・いわゆるロッテホールディングス事件)。

つまり、株主総会において解任理由として明示的に述べられていなかった事情であっても、解任時点で客観的に存在していたのであれば、後の訴訟で正当な理由として主張することが可能です。この点は、解任の場面で理由を詳細に説明することの是非を判断するうえで意味を持ちます。

ただし、これは「後から理由を探せばよい」ということではありません。解任時点で存在していた事実を証拠として立証できるかどうかが問われるため、解任に先立って事実関係を調査し、記録化しておくことが不可欠です。ハラスメント事案であれば調査報告書、任務懈怠であれば損害の発生と行為との関連を示す資料が、後の訴訟における会社側の防御の中心になります。

(5) 任期の定めがない場合の例外

なお、特例有限会社のように取締役の任期の定めがない会社については、正当な理由なく解任された場合であっても、会社法第339条第2項に基づく損害賠償請求はできないとした裁判例があります(東京地判平成28年6月29日)。損害の内容が「残存任期中に得られたはずの報酬」である以上、任期の定めがなければ損害を観念できないという理解です。自社の機関設計・定款の定めを確認する必要があります。

3.解任と解職の違い——手続きが異なる

実務でしばしば混同されるのが、「解任」と「解職」の区別です。

解任は、株主総会決議によって取締役の地位そのものから退かせることです(会社法第339条第1項)。解職は、取締役会決議によって代表取締役から代表権を奪い、平取締役にすることです(会社法第362条第2項第3号)。解職をしても取締役としての地位は残ります。

代表取締役の不祥事や経営陣の内紛では、まず取締役会で解職を行い、その後の株主総会で解任するという順序をとることが一般的です。

解職の際に注意すべき点として、解職の対象となる代表取締役は、その決議について特別の利害関係を有するため、議決に加わることができません(会社法第369条第2項)。定足数の計算からも除外されます。したがって、定足数と議決要件の充足は、対象者を除外して検討する必要があります。定款で決議要件が加重されている場合もあるため、事前の確認が不可欠です。

4.取締役会を開催していない会社で問題が生じる場面

中小企業では、取締役会設置会社でありながら実際には取締役会を開催していないケースが少なくありません。役員間に対立がない限り、この状態が直ちに問題化することは多くありませんが、いざ争いが生じた場面では手続きの瑕疵が争点になります

典型的なのが、株主総会の招集手続をめぐる問題です。取締役会設置会社では、株主総会の招集は取締役会の決議に基づいて代表取締役が行う必要があります(会社法第298条第4項、第296条第3項)。取締役会決議を経ずに株主総会が招集された場合、その効果は誰が招集したかによって異なります

代表取締役以外の取締役が招集した場合——取締役会決議がないことに加えて招集権限自体がないため、そこでなされた決議は法律上の株主総会決議とは評価できず、決議不存在となります(最判昭和45年8月20日)。決議不存在確認の訴えには提訴期間の制限がなく、誰でもいつでも主張できるため、会社にとって最も深刻な瑕疵です。

代表取締役が招集した場合——会社法第298条第4項違反ではあるものの、招集権者自身による招集であるため瑕疵の程度が相対的に小さく、決議取消事由にとどまるとされています(最判昭和46年3月18日)。決議取消しの訴えは決議の日から3か月以内に提起する必要があるため(会社法第831条第1項)、この期間を経過すれば決議の効力は確定します。

中小企業で実際に多いのは②のパターン、すなわち代表取締役が取締役会を開かないまま株主総会を招集しているケースです。この場合、瑕疵は決議取消事由にとどまり、3か月の提訴期間を過ぎれば争えなくなるため、直ちに致命的な問題になるとは限りません。

もっとも、経営陣が対立している局面では話が変わります。代表権をめぐる争いが生じ、代表取締役の地位自体に疑義がある状態で株主総会が招集されれば、①に該当する余地が出てきます。また、解任決議をめぐって争いが生じた場合、解任された側から「そもそも招集手続に瑕疵がある」という反論が出ることがあり、取締役会議事録を作成していない会社では、適法な招集決定があったことを立証できないという事態が生じえます。

また、代表取締役の解職には取締役会決議が必要ですが、そもそも取締役会を適法に開催・記録する運用がなければ、解職決議の有効性自体が争われる余地を残します。役員間に対立が生じる可能性がある会社では、平時から取締役会の開催と議事録作成を適切に行っておくことが、有事における会社側の対応力を確保することにつながります。

5.取締役の責任追及——任務懈怠責任

解任とは別に、取締役が会社に損害を与えた場合、会社は任務懈怠責任(会社法第423条第1項)に基づき損害賠償を請求することができます。

取締役は会社に対して善管注意義務(会社法第330条・民法第644条)および忠実義務(会社法第355条)を負っており、これに違反して会社に損害を生じさせた場合が責任追及の対象となります。典型的には、会社資産の私的流用、無断での競業行為、利益相反取引による会社の損害、法令違反行為による制裁金の発生などです。

ただし、経営判断の結果として損害が生じたにすぎない場合には、いわゆる経営判断原則により、判断の過程・内容に著しく不合理な点がない限り責任は否定されます。「業績が悪化した」というだけでは責任追及はできません。

実務上は、責任追及と解任を並行して検討することになりますが、責任追及については、損害額の立証が可能かどうか、回収可能性があるかどうかを冷静に見極める必要があります。

6.共同経営者間の対立——法的手段が最善とは限らない

持株が拮抗している共同経営者間の対立や、代表権をめぐる争いについては、法的手段に訴える前に検討すべきことがあります。

最も重要なのは、法的手段をとることによって事業運営に支障が生じないかどうかです。持株比率が拮抗している状況では、一方が弁護士を立てて法的手続きに踏み込むことで、意思決定が完全に止まってしまうことがあります。株主総会が開催できない、取締役会で決議が成立しない、金融機関との取引に支障が出るといった事態は、双方にとって損失です。

そのため、相談を受けた段階では、弁護士が前面に出ることで解決に向かう道があるかどうかを慎重に検討します。持株比率から結論が既に決まっている事案であれば、法的手段の効果は限定的です。一方で、株式の買取りや事業の分割といった出口が見える事案であれば、代理人を立てて交渉することに意味があります。

役員個人からのご相談についても、まず「法的手段によって何が実現できるのか」を率直にお伝えすることを重視しています。

まとめ

① 取締役と会社は委任関係にあり、株主総会決議によっていつでも解任できる。ただし正当な理由がなければ、残任期分の報酬相当額等の損害賠償請求を受ける(会社法第339条第2項)。

② 解任を検討する際は、まず解任理由が「正当な理由」にあたるかを見極める。法令違反・不正行為・ハラスメント・著しい不適任は認められやすく、経営方針の対立や単なる能力不足は認められにくい。

③ 正当な理由は解任時点で客観的に存在していれば足りるが、その立証のためには事前の事実調査と記録化が不可欠。任期満了による不再任であれば損害賠償の問題は生じない。

④ 解任(株主総会・取締役の地位を失う)と解職(取締役会・代表権のみ失う)は別の手続き。解職対象者は決議に加われず定足数からも除外される。

⑤ 取締役会を開催していない会社では、株主総会の招集手続の瑕疵(決議不存在のリスク)が争点になりうる。平時からの取締役会運営と議事録作成が有事の対応力を左右する。

⑥ 共同経営者間の対立では、法的手段によって事業運営が止まるリスクを踏まえ、代理人が介入することで解決に向かう道があるかを見極める必要がある。

当事務所では、取締役のハラスメント・任務懈怠を理由とする解任の検討から、事実調査・株主総会/取締役会の運営支援・解任後の紛争対応まで、会社側の立場でサポートしています。「解任を検討しているが、後から報酬を請求されないか不安がある」という段階でのご相談をお勧めします。

ハラスメント事案の調査については「社内ハラスメント調査を外部弁護士に依頼する意味」を、株主間契約については「ベンチャー企業が出資者等と株主間契約書を締結する時の注意事項」をあわせてご参照ください。

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2006年、福岡県弁護士会に弁護士登録。
企業法務(使用者側での労務問題、契約書チェック、コンプライアンス体制の整備)、交通事故での損害賠償請求、相続、離婚などの家事事件、企業の事業再生・債務整理その他一般民事、刑事事件等に取り組む。
企業内の研修やセミナー開催の実績多数。
法律事務所として弁護士の質とサービスレベルの高さを磨き、地域経済、地域社会に貢献することを事務所の理念とする。

※日本全国からのご相談に対応しております。

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