【介護事業者向け】介護報酬の返還・減算を招く現場運用とその対策

ケアマネ業務に潜む報酬の「返還・減算」のリスク

実地指導で指摘されて、はじめて気づく

「利用者のために、良かれと思って対応していた」——その運用が、実は介護報酬の請求要件を満たしていなかった。実地指導で指摘され、数か月・数年分の報酬返還を求められて、はじめて事の重大さに気づく。私たちが介護事業者からご相談を受ける中で、決して珍しくない場面です。

介護保険の報酬は、介護保険法・運営基準・報酬告示・数多くの通知やQ&Aが幾重にも重なった、極めて複雑なルールの上に成り立っています。しかも改正のスパンが短い。現場のケアマネジャーや管理者が、通常業務をこなしながらそのすべてを正確に把握し続けることは、現実的に困難です。

厄介なのは、これらのリスクが普段は表面化しないことです。日々問題なく請求が通っているように見えても、要件を欠いた運用が積み重なっていれば、実地指導の際に一括して返還を求められる。個々の金額は小さく見えても、対象が全利用者・複数年に及べば、返還額は一気に膨らみます。

ここでは、現場で判断を誤りやすく、かつそのまま報酬の返還・減算に直結する場面を取り上げ、どこに落とし穴があるのかを整理します。

1 「利用者が訪問を断った」——それは減算の対象になり得ます

居宅サービス計画を作成した後、ケアマネジャーには実施状況を把握するためのモニタリングが義務づけられています(運営基準13条)。原則として、月に1回以上、利用者の居宅を訪問し、その結果を記録しなければなりません。

ここで問題になるのが、「利用者本人が訪問を断った」というケースです。運営基準上、モニタリング訪問を省略できるのは「特段の事情」がある場合に限られますが、これは利用者側のやむを得ない事情を指すものであり、利用者が任意に訪問を拒否したにすぎない場合は「特段の事情」に当たりません。にもかかわらず訪問を行わなければ、運営基準違反として減算の対象となり得ます。「本人が要らないので」という現場の判断が、そのまま減算につながってしまうのです。

これは机上の話ではありません。自治体が公表している指導監査の結果を見ると、居宅を訪問せずサービス提供事業所で利用者に面接していた、モニタリング結果の記録が長期間なされていなかった、といった事例が、いずれも運営基準減算に該当するとして、介護給付費の返還等の要否を確認するよう指摘されています。実地指導の現場で、繰り返し問題とされている典型例なのです。

2 オンラインモニタリング解禁は「毎月訪問が不要になった」わけではない

2024年度(令和6年度)の介護報酬改定では、一定の要件のもとでテレビ電話等を用いたオンラインモニタリングが認められるようになりました。移動時間の削減につながる歓迎すべき改正ですが、ここに新たな落とし穴があります。

これは「毎月の訪問が不要になった」という話ではありません。オンラインでのモニタリングが認められるのは、文書による利用者の同意、サービス担当者会議等での主治医・関係者の合意、利用者の状態が安定していること、テレビ電話等で意思疎通ができること等の要件を満たした場合に限られます。そのうえで、少なくとも2か月に1回は居宅を訪問することが前提です。

要件を満たさないままオンラインで済ませていれば、後日の実地指導で「適切なモニタリングが行われていなかった」として報酬返還を求められかねません。新しく認められた運用ほど、要件の理解が追いつかないまま走り出しがちで、リスクが潜みます。「うちの運用は要件を満たしているか」を改正のたびに点検できる体制があるかどうかが、そのまま経営リスクの差になります。

3 「家族の分まで、つい」——同居家族がいる世帯の生活援助

訪問介護の生活援助をめぐっては、同居家族がいる世帯での算定に注意が必要です。生活援助は、利用者本人のために行われるものが対象であり、同居家族が使用する物品の買い物や、家族の分まで含めた調理・洗濯・掃除といった、家族のための家事は算定できないのが原則です。

ところが現場では、「目の前に家族の洗濯物もあるのだから、ついでに」「一人分だけ作るのも二人分作るのも手間は変わらないから」と、善意で家族の分まで対応してしまいがちです。悪意のある水増しではなく、むしろ親切心から生じる。だからこそ当事者は問題に気づきにくく、算定できない家事を含んだ請求が、知らないうちに積み重なっていきます。

この点も、自治体の不適切事例集などで繰り返し取り上げられているところです。たとえば、日中は独居だから問題ないと考えたケアマネジャーが、実際には同居家族がいれば算定できない掃除等の生活援助を中心にケアプランを組み、訪問介護事業者もそのまま実施していた——といった事例が、不適切な算定として指摘されています。都道府県の指導を通じて注意喚起が重ねられてきた、いわば「指導監査で狙われやすい」論点でもあるのです。

もちろん、同居家族がいれば生活援助が一律に認められないわけではなく、家族が障害や疾病等により家事を行うことが困難な場合など、算定が認められる場面もあります。だからこそ、「どの家事が、誰のための家事なのか」「なぜこの世帯で生活援助が必要なのか」をアセスメントで丁寧に整理し、記録に残しておくことが欠かせません。この線引きと記録の精度が、そのまま返還リスクの大きさを左右します。

共通するのは「善意」と「複雑さ」と「改正」

ここに挙げたのは一例にすぎませんが、いずれにも共通する構造があります。

一つは、多くが「利用者のために良かれと思って」下した判断から生じていること。悪意のある不正請求ではなく、むしろ真面目に対応した結果として要件を外してしまう。だからこそ、当事者は問題に気づきにくいのです。

二つ目は、要件が細かく、複雑であること。「訪問を省略できるのはどんな場合か」「オンラインで足りるのはどこまでか」「その家事は誰のためのものか」——境界線の判断が、日々求められます。

三つ目は、制度が頻繁に改正されること。2024年度改定のオンラインモニタリング解禁が示すように、昨日まで正しかった運用が、今日は要件不足になっていることがあります。

顧問弁護士がいれば、返還リスクは「平時」に潰せる

これらのリスクに共通するのは、トラブルが表面化してから調べていては手遅れになりやすいという点です。実地指導で指摘されてからでは、すでに返還額は積み上がっています。

顧問弁護士がいる事業所では、次のように”平時”のうちに手を打てます。判断に迷った運用について、その場で相談し、要件を満たしているか確認できる。運営規程や記録の様式を、最新の制度に合わせて点検しておける。制度改正のポイントを、自事業所の運用に即して整理して受け取れる。そして実地指導や過誤・返還をめぐる行政とのやり取りが生じたときには、初動から一貫して対応を任せられる。

私たちは、使用者側の労働問題を中心とする企業法務に長年取り組む中で、介護施設・介護事業者からのご相談を数多くお受けしてきました。日々の運用に潜む報酬リスクを、事業所の実情に即して点検し、”知らないうちに失う”事態を未然に防ぐお手伝いができます。

「これは弁護士に聞くほどのことだろうか」——そう迷う運用こそ、実は最も相談していただきたい場面です。トラブルが表面化する前の一本のご相談が、事業所を大きな返還リスクから守ります。介護報酬や運営に関する法的なお困りごとは、どうぞお気軽にご相談ください。


本コラムは一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応は、事案の詳細を踏まえたご相談のうえで判断する必要があります。

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2006年、福岡県弁護士会に弁護士登録。
企業法務(使用者側での労務問題、契約書チェック、コンプライアンス体制の整備)、交通事故での損害賠償請求、相続、離婚などの家事事件、企業の事業再生・債務整理その他一般民事、刑事事件等に取り組む。
企業内の研修やセミナー開催の実績多数。
法律事務所として弁護士の質とサービスレベルの高さを磨き、地域経済、地域社会に貢献することを事務所の理念とする。

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