休眠担保(休眠抵当権)の抹消手続|4つの方法と裁判が必要になるケースを弁護士が解説

相続した不動産を売却しようとしたところ、登記事項証明書に、明治・大正・昭和初期に設定された抵当権が残ったままになっていた。債権はとうの昔に弁済されているはずなのに、登記だけが消えずに残っている——。

こうした長年放置された担保権は「休眠担保」「休眠抵当権」と呼ばれ、不動産の売却や活用を止めてしまう典型的な障害です。買主も金融機関も、担保が付いたままの不動産は敬遠します。

近年の法改正により抹消手続は簡素化されましたが、それでも登記所の手続だけでは消せず、裁判所を使わざるを得ない休眠担保は少なからず存在します。本記事では、抹消の4つのルートと、その選択を誤らないための実務上の勘所を整理します。

休眠担保(休眠抵当権)とは

登記記録上は先取特権・質権・抵当権が残っているものの、被担保債権は既に消滅しているか、消滅していると考えて差し支えない状態にあり、長期間にわたって抹消登記がされていないものを指します。

典型的なのは、次のような登記です。

  • 債権額が「金五拾円」「金百円」など、現在の貨幣価値とかけ離れている
  • 抵当権者が個人で、既に死亡している(相続人も追えない)
  • 抵当権者が「◯◯村農業会」「◯◯産業組合」「◯◯無尽会社」など、現存しない法人である
  • 設定登記が戦前・戦後まもなくの日付である

これらは、当時の弁済実務が「返済したら登記も消す」という運用になっていなかったことに起因します。債務はとっくに終わっているのに、登記だけが取り残されているわけです。

なぜ売却の障害になるのか

登記の抹消は、原則として登記権利者(不動産所有者)と登記義務者(抵当権者)が共同で申請しなければなりません(不動産登記法60条)。つまり、抵当権者本人またはその承継人の協力がなければ、原則として消せないという建付けになっています。

抵当権者が死亡していれば相続人全員、法人であれば解散後の清算人。これらを探し出して協力を求めるのは、100年近く前の登記では現実的でないことが多く、そこで共同申請の原則の例外として、単独申請を認める制度が用意されています。

休眠担保を抹消する4つのルート

① 抵当権者またはその相続人と共同申請する

もっとも基本的な方法です。抵当権者の相続人が判明し、協力が得られるのであれば、相続を証する情報を添付して共同申請します。

登記記録上の住所が古くても、戸籍・住民票の除票・戸籍の附票をたどれば相続人にたどり着ける場合があります。なお、住民票の除票および戸籍の附票の保存期間は、令和元年6月20日から150年に延長されており、以前より追跡できる可能性が高まっています。

まずはこのルートを尽くすのが原則です。以下の②〜④は、これができない場合の例外的手続です。

② 公示催告・除権決定による単独抹消(不動産登記法70条1項〜3項)

共同して抹消申請をすべき者の所在が知れないため共同申請ができないときは、登記権利者は公示催告の申立てをすることができます(不動産登記法70条1項)。裁判所の除権決定を得れば、登記権利者が単独で抹消登記を申請できます(同条3項)。

ただし、実務上は使い勝手がよいとは言えません。所在が知れないことの証明に加えて、登記された権利が既に消滅している、あるいは不存在であることまで疎明する必要があり、この点について立証の軽減措置は設けられていないためです。

なお、地上権・永小作権・質権・賃借権・採石権に関する登記や買戻しの特約の登記で、登記された存続期間・買戻期間が既に満了している場合には、法務省令で定める方法による調査を行っても所在が判明しないときに所在不明とみなす特則があります(同条2項)。ただしこれは用益権等についての規定であり、抵当権には直接は適用されません。

③ 完済証書の提供または供託による単独抹消(不動産登記法70条4項)

休眠抵当権の抹消として実務上よく用いられてきたのが、この供託によるルートです。

不動産登記法70条4項は、同条1項の場合(=共同申請すべき者の所在が知れない場合)について、次の二つを定めています。

  • 被担保債権が消滅したことを証する情報として政令で定めるもの(完済証書等)を提供したときは、単独で抹消申請ができる
  • 被担保債権の弁済期から20年を経過し、かつ、その期間を経過した後に、被担保債権・利息・債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭を供託したときも、同様とする

前段の完済証書が手元に残っているケースは稀ですから、実際には後段の供託が使われます。元本が数十円といった登記であれば供託額も小さく収まりますが、元本が高額な場合や、長期間の利息・遅延損害金を積み上げると供託額が膨らみ、この方法が事実上使えないこともあります。

また、このルートには「共同申請すべき者の所在が知れないこと」という前提があります。抵当権者が法人の場合、この要件は非常に限定的に解釈されてきました。商業・法人登記簿に記録がなく、閉鎖登記簿も保存期間の経過により存在せず、法人の存在自体を確認できないといった場合に限られるとされ、適用範囲の狭さが長らく問題視されていました。

④ 解散した法人の担保権の特則(不動産登記法70条の2)

そこで令和5年4月1日に新設されたのが、不動産登記法70条の2です。

不動産登記法70条の2(解散した法人の担保権に関する登記の抹消)
登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前条第2項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から30年を経過し、かつ、その法人の解散の日から30年を経過したときは、第60条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。

要件を分解すると、次の4つです。

  1. 共同して抹消申請をすべき法人が解散していること
  2. 不動産登記法70条2項の方法により調査してもなお、その法人の清算人の所在が判明しないこと
  3. 被担保債権の弁済期から30年を経過していること
  4. 法人の解散の日から30年を経過していること

この4要件を満たせば、供託をすることなく、所有者が単独で抹消登記を申請できます。清算人が全員死亡していることが判明した場合も、「清算人の所在が判明しない」場合にあたるとされています。

農業会・産業組合など、戦後の法令により解散した団体が抵当権者になっている登記では、このルートが第一候補になります。従来はまず裁判所に清算人選任を申し立てる必要があり、時間も費用もかかっていたことを考えると、実務上のインパクトは小さくありません。

添付情報としては、被担保債権の弁済期を証する情報、法人の解散の日を証する情報(法人の閉鎖登記簿謄本等)、清算人の所在が判明しないことを証する調査報告書などが必要です。なお、昭和39年4月1日の不動産登記法改正より前の登記簿には弁済期が記載されているため、閉鎖登記簿から弁済期を確認できることがあります。

裁判手続によらざるを得ないケース

以上のルートがいずれも使えない場合、抵当権抹消登記手続請求訴訟を提起することになります。ここで判断を誤ると、抹消できないまま終わってしまうため、注意が必要です。

主張すべき権利の選択を誤らない

訴訟では「なぜ抵当権が消えているのか」を法律構成として立てる必要があります。主な選択肢は次のとおりです。

  • 被担保債権の弁済による消滅:弁済の証拠が残っていることは稀です
  • 被担保債権の消滅時効:もっとも一般的な構成です。ただし起算点として弁済期の特定が必要になります
  • 抵当権自体の消滅時効:ここに落とし穴があります

民法396条は、抵当権は債務者および抵当権設定者に対しては被担保債権と同時でなければ時効によって消滅しない、と定めています。つまり、抵当権設定者やその相続人という立場では、抵当権それ自体の消滅時効を援用することができず、被担保債権の消滅時効を立てるほかありません。一方、第三取得者や後順位抵当権者は、同条の反対解釈により抵当権自体の消滅時効を援用できると解されています。

自分がどの立場にあるかによって、主張できる権利が変わります。この見極めが最初の分岐点です。

弁済期が不明だと時効の主張が難しい

被担保債権の消滅時効を主張するには、起算点、すなわち弁済期の特定が不可欠です。ところが登記記録に弁済期の記載がない場合、これを立証できず、時効の主張が組み立てられません。

前述のとおり、昭和39年4月1日より前の登記簿には弁済期が記載されているため、まずは閉鎖登記簿を取り寄せて確認します。ここで弁済期が拾えるかどうかが、方針を大きく分けます。

なお、令和2年4月1日より前に生じた債権については改正前民法が適用されるため、時効期間の判断も改正前の規律(商事債権5年、一般債権10年など)によることになります。休眠担保のほとんどはこの区分に入ります。

訴訟の相手方(被告)を確定する

訴訟を提起する前提として、被告となる者を確定しなければなりません。

  • 抵当権者が個人で死亡している場合:相続人全員。相続人がいない、または全員が相続放棄している場合は、相続財産清算人の選任申立て(民法952条)が先行します
  • 抵当権者が法人で解散している場合:清算人。清算人がいない、または欠けている場合は、裁判所に清算人選任の申立てを行います(株式会社は会社法478条2項、一般社団法人は一般社団法人及び一般財団法人に関する法律209条2項など、法人の種類に応じた根拠条文によります)
  • 所在が不明な場合:公示送達(民事訴訟法110条)の活用を検討します

いずれも訴訟提起前に済ませておくべき前提手続であり、ここで時間を空費すると、売却スケジュール全体が後ろ倒しになります。売却の期限が決まっている案件では、着手の順序そのものが結果を左右します。

【地下鉄天神駅直結】お気軽にご相談ください。

実務上、よくある判断ミス

  • 登記記録だけを見て方針を決める:閉鎖登記簿、法人の閉鎖登記簿謄本を取り寄せないまま、供託ルートに進んでしまう
  • 70条の2が使える事案で、従来どおり清算人選任を申し立てる:不要な時間と費用が発生します
  • 供託額の試算を後回しにする:利息・遅延損害金を含めた供託額が想定を超え、途中で方針転換を迫られる
  • 相続登記を先に済ませていない:所有権登記名義人が被相続人のままでは、抹消登記の申請人となれません。相続登記は令和6年4月1日から義務化されており、いずれにせよ先に済ませる必要があります

よくあるご質問

抵当権者が誰なのかも分からない古い登記でも消せますか。

登記記録に記載された抵当権者の氏名・住所または法人名から調査を始めます。法人であれば商業登記簿・閉鎖登記簿、個人であれば戸籍をたどります。調査を尽くしても判明しない場合に、公示催告や供託によるルートを検討します。

どのくらいの期間がかかりますか。

不動産登記法70条の2による単独申請であれば、調査に時間を要するものの、裁判所の手続を経ないぶん比較的短期間で完了します。供託ルートは供託手続の分が加わります。訴訟による場合は、相手方の確定を含めて半年から1年以上を見込む必要があります。

費用はどのくらいですか。

調査の範囲、供託の要否、訴訟の要否によって大きく異なります。初回のご相談で、どのルートを使うかの見通しと、それに応じた費用の目安をお示しします。

買主が決まっているのですが、間に合いますか。

使えるルートによって所要期間が変わります。決済期日が決まっている場合は、早い段階でご相談ください。方針決定の前に閉鎖登記簿等の調査を先行させることで、期間を短縮できることがあります。

休眠担保の抹消は本江法律事務所へ

本江法律事務所には、長年にわたり特殊な不動産問題に取り組んできた弁護士が所属しています。

  • 相続した不動産に古い抵当権が残っていて売却できない
  • 抵当権者が既に解散した法人で、どこから手を付ければよいか分からない
  • 供託による抹消を検討したが、供託額が高額で行き詰まった
  • 過去に司法書士へ相談したが、裁判手続が必要と言われた

こうしたご相談について、抹消の見込みがあるか、どのルートを使うのが最短か、期間と費用はどの程度かを、具体的にお示しします。福岡・京都いずれのオフィスでもご対応いたします。

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※本記事は2026年9月時点の法令に基づいて執筆しています。

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2006年、福岡県弁護士会に弁護士登録。
企業法務(使用者側での労務問題、契約書チェック、コンプライアンス体制の整備)、交通事故での損害賠償請求、相続、離婚などの家事事件、企業の事業再生・債務整理その他一般民事、刑事事件等に取り組む。
企業内の研修やセミナー開催の実績多数。
法律事務所として弁護士の質とサービスレベルの高さを磨き、地域経済、地域社会に貢献することを事務所の理念とする。

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