うつ病の社員への会社の対応——休職・復職・解雇の判断と会社の責任を使用者側弁護士が解説

従業員から「うつ病と診断された」と申告を受けたとき、会社は何から手をつけるべきでしょうか。

この場面で会社、特に現場の上司が迷うのは、法律論そのものより「どこまで踏み込んでよいのか」という距離感です。踏み込みすぎればプライバシーの侵害になり、遠慮しすぎれば状態の悪化を見逃します。そして対応を誤ったまま時間が経つと、休職・復職・退職のどの局面でも会社の選択肢が狭まっていきます。

本記事では、使用者側の労務案件を専門とする弁護士の立場から、申告を受けた日から復職・再休職に至るまでの実務対応を、時系列に沿って解説します。

1.最初にすべきは「病名の確認」ではない

実務でまず気をつけたいのは、病名だけで状況を認識できたと考えてはいけないということです。

「うつ病」という診断名だけでは、その人がいまどの程度の状態にあるのかは、ほとんど何も分かりません。同じ診断名でも、業務調整で持ちこたえられる方もいれば、直ちに就労を止めるべき方もいます。会社が把握すべきなのは診断名ではなく、具体的なエピソードです。

聞き取りで確認すべき事柄は、次のようなものです。

●飲酒量が増えていないか、頻度や量が以前と変わっていないか

●睡眠がとれているか、寝つき・中途覚醒・早朝覚醒の有無

●食欲の減退、体重の変化

●意欲の減退。以前は問題なくできていた作業に時間がかかるようになっていないか

●希死念慮をうかがわせる発言がなかったか

そして重要なのは、これらを本人からだけでなく、周囲の従業員からも聞き取ることです。本人は自分の変化を過小に申告する傾向があり、また申告できる状態にないこともあります。同じ部署の従業員のほうが、変化を早くから見ていることが少なくありません。ただ、この段階でも気をつけるべきは、例えば「新型うつ」と俗に言われるような勤務時間外では活発にしているが仕事はできない、という状況を把握したとしても、素人判断で詐病と即断しないことです。あるいは、本人の申告がないとしても、体調不良の訴えや、周囲の従業員からの聞き取りから、うつ病を疑わせるエピソードがあれば、業務量調整といった対応が必要となる場合があります。

申告を待っていては手遅れになる——東芝事件

この点について、最高裁は明確な判断を示しています。

東芝事件(最高裁第二小法廷 平成26年3月24日判決)は、うつ病を発症して休職し、休職期間満了により解雇された従業員が、発症は過重な業務によるものであるとして争った事案です。

会社側は、その従業員が神経科への通院や病名を会社に申告していなかったことを理由に、損害賠償額の減額(過失相殺)を主張し、控訴審はこれを認めて2割の減額をしました。しかし最高裁はこれを破棄し、差し戻しています。

最高裁が示したのは、労働者の精神的健康に関する情報はプライバシーに属するものであり、労働者本人からの積極的な申告は期待し難いという前提です。そのうえで、使用者は申告がなくても健康に関わる労働環境等に十分な注意を払う義務を負い、過重な業務が続くなかで体調の悪化が看取される場合には、必要に応じて業務を軽減するなどの配慮に努める必要があるとしました。

つまり「本人が言わなかったから知らなかった」は通用しないということです。周囲からの聞き取りを含めて状況を把握しようとする姿勢そのものが、後に会社の責任が争われた際の評価を分けます。

2.把握と並行して、先に手を打っておくべきこと

つまり、聞き取りの結果を待ってから動くのでは遅い場面があります。そして、次の2つは、状況把握と並行して着手すべきです。

業務量・業務内容の調整。残業の抑制、担当業務の一部移管、納期の見直しなど、負荷を下げる措置を具体的に行います。

本人が原因と訴えている事象との距離を取らせること。特定の上司との関係、特定の顧客対応などが原因として挙げられている場合、その事実関係の調査結果を待たずに、まず物理的・組織的な距離を確保します。調査の結論が出るまで放置すると、その間の悪化について会社の対応が問われます。

ここで注意していただきたいのは、距離を取らせることは、本人の主張を認めたことにはならないという点です。事実関係の調査は調査として、並行して進めれば足ります。「調査で結論が出ていないから何もしない」という判断が、最も危険です。

産業医面談は、本人の理解を得てから

産業医面談は重要な手続ですが、本人に必要性を説明し、理解してもらったうえで実施するべきです。

就業規則に受診命令の根拠があるとしても、いきなり命令として突きつけると、本人に「会社は自分を辞めさせようとしている」という受け止め方を生みます。そうなると、その後の休職・復職の局面でも協力が得られなくなり、結果として会社が不利になります。

なお、会社が指定する医師の受診を命じられる旨の規定が就業規則にあるかどうかは、この段階で必ず確認してください。規定がなければ、主治医の診断書だけを頼りに判断せざるを得ない状況に追い込まれます。

3.中途採用者の場合に注意すべきこと

実務上、うつ病の事案には、適応障害の事案とは異なる傾向が見られます。

特に中途採用の従業員の場合、入社前から罹患していたものを申告せずに入社していたという経過がうかがわれるケースが少なくありません。そうした事案では、うつ病であることが判明する前の段階から、被害者意識の強さが言動に表れていることがあります。

この傾向を知っているかどうかで、会社の初動は変わります。入社直後から周囲との摩擦が続いていた従業員が、あるとき突然うつ病の診断書を提出してくる、という経過は決して珍しいものではありません。

もっとも、ここで会社が取るべき態度は、疑いの目を向けることではありません。むしろ逆で、こうした経過がある事案ほど、後に紛争化したときに会社の対応の一つひとつが「真に従業員の健康を守ることに向けられたものだったか」という目線で精査されます。記録を残しながら、手順を省かずに進めることが重要になります。

4.休職を命じるとき

私傷病休職は法律上の制度ではなく、会社が就業規則に定めて初めて存在する制度です。したがって、就業規則にどう書かれているかが、会社の打てる手の範囲をそのまま決めます

休職を命じる場面で確認すべき規定は、次のとおりです。

①休職を命じる要件(欠勤が何日続いたときか、断続的な欠勤を含むか)

②会社が指定する医師の受診を命じられるか

③休職期間の長さ、勤続年数による差、通算規定の有無

④復職の判断権限が会社にあることの明記

⑤休職期間満了時の効果(自然退職か解雇か)

とりわけ③の通算規定は、うつ病の事案で決定的な意味を持ちます。復職と再休職を繰り返す経過をたどることが多いためで、通算規定がないと、復職のたびに休職期間がリセットされ、事実上いつまでも雇用関係を終了できない状態に陥ります。

休職制度の設計と休職期間満了時の扱いについては、休職期間満了・自然退職の有効要件で詳しく解説しています。

5.復職の可否をどう判断するか

復職判断の出発点は、従前の職務を通常程度に行える健康状態にまで回復しているかという基準です。

ただし、これをそのまま適用してよいとは限りません。

片山組事件(最高裁第一小法廷 平成10年4月9日判決)は、職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した労働者について、現に就いている業務の労務提供が十分にできない場合であっても、その能力、経験、地位、企業の規模・業種、労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らして、現実に配置可能な他の業務について労務の提供ができ、かつその提供を申し出ているのであれば、債務の本旨に従った履行の提供にあたると判断しました。

つまり職種を限定して採用したのでなければ、現に配置可能な他の業務についても検討する必要があるということです。中小企業では職種限定の合意が明確でないことが多く、この点が争点になります。

手順としては、次の流れで進めるのが基本です。

①本人から復職の申し出と主治医の診断書を提出させる

②主治医に対し、業務内容を具体的に示したうえで意見を求める

③産業医または会社指定医の意見を取得する

④必要に応じてリハビリ勤務・試し出勤を実施する

⑤以上を踏まえて会社が最終判断する

②が実務上の要点です。主治医は多くの場合、患者本人からの申告に基づいて診断しており、会社の業務内容を正確には把握していません。「復職可能」という診断書が、日常生活に支障がない程度の意味で書かれていることも珍しくありません。会社が業務内容を具体的に文書で示したうえで意見を求め直すと、診断の内容が変わることがあります。

6.復職後に欠勤が再発したとき

うつ病の事案で最も相談が多いのが、この局面です。復職させたものの欠勤が頻発し、再休職を検討せざるを得なくなる、という経過です。

ここで会社が最初に立ち返るべきなのは、最初の復職判断が早すぎたのではないかという点です。本人の当時の状態はどうだったか、どのような資料に基づいて復職を認めたのか。この検証を飛ばして再休職の手続に進むと、後に争われた際に「会社は同じ判断を繰り返しただけだ」と評価されかねません。

そして再休職を命じる際には、どのような状態になれば復職ができるのかを、あらかじめ明確にしておくプロセスが重要です。具体的には、次の2つを確認します。

①本人が、復職の条件をどう認識しているか

②主治医が、どのような状態をもって就労可能と判断するのか

この2つが一致していないまま再休職に入ると、期間満了の局面で必ず対立します。逆に、この時点で条件を共有できていれば、その後の判断は格段に進めやすくなります。

復職と再休職を繰り返す事案への対応については、休職と復職を何度も繰り返す社員にどう対処するかもあわせてご覧ください。

7.会社の責任はどこまで問われるのか

うつ病の発症や悪化について会社の責任が争われる場合、争点となるのは安全配慮義務違反(労働契約法5条)です。

実務上の傾向として申し上げると、ひとつの出来事だけで責任が認められることは、それほど多くありません。むしろ次のような要素が組み合わさって、悪化につながったという主張に結びつきます。

●長時間労働

●ハラスメント

●業務量の増加

●業務の質の変化(難易度の高い業務への配置転換など)

一つひとつはそれほど重大とはいえない事象でも、重なることで全体として過重であったと評価される。この構造を理解しておくことが重要です。

したがって会社としては、状況が判明した時点で、これらの要素を一つずつ潰していく意識を持つ必要があります。そのうえで、本人の回復を明確なゴールに設定し、計画的に取り組むこと。場当たり的な対応の積み重ねが、最も不利な評価を招きます。

なお、労働基準監督署による労災認定と、会社に対する損害賠償責任とは、判断主体も判断基準も異なります。労災認定されたからといって直ちに会社の賠償責任が生じるわけではありません。詳細は精神疾患(うつ病・適応障害)の労災認定と会社の責任で解説しています。

8.解雇・退職勧奨を考えるとき

最後に、会社が最も判断を誤りやすい場面について述べます。

うつ病の従業員への対応で危険なのは、経験不足と先入観です。

対応した経験値が不足している会社では、優しすぎるか、厳しすぎるかのどちらかに振れます。経験があっても、優しすぎるあまり退職を促すべきタイミングを逸してしまうケースがあります。しかし件数として多いのは、経験不足ゆえに解雇や退職勧奨を試みるタイミングが早すぎ、「十分な回復の機会を与えていなかった」という評価を受ける対応です。

処分を急いだ会社が負けた事例——日本ヒューレット・パッカード事件

日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁 平成24年4月27日判決・集民240号237頁)は、この危険を端的に示しています。

被害妄想などの精神的不調を抱えた従業員が、出勤できない旨を伝えたうえで有給休暇を取得し、その後約40日間にわたり欠勤しました。会社はこれを就業規則の定める無断欠勤にあたるとして、諭旨退職処分としました。

最高裁は、この処分を無効と判断しています。示された規範は、精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神科医による健康診断を実施するなどしたうえで、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めたうえで休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであるというものです。

欠勤日数や連絡の有無だけを見て処分を正当化することはできず、欠勤の背景にある事情を検討しなければならないということです。

言い換えれば、会社が雇用関係の終了を検討できるのは、回復の機会を実質的に与えたと言える手順を踏んだ後です。休職を命じ、期間を与え、復職の可否を適切な手順で判断する。この積み重ねがあって初めて、休職期間満了による退職や解雇が有効と評価される余地が生まれます。

9.まとめ

うつ病の従業員への対応は、どの局面を切り取っても「会社がどこまで手順を尽くしたか」が問われます。

①病名ではなくエピソードを、本人と周囲の双方から把握する

②把握と並行して、業務調整と原因事象からの距離確保を先に行う

③就業規則の休職規定、とりわけ通算規定と会社指定医の受診命令の根拠を確認する

④復職判断では、主治医に業務内容を示したうえで意見を求め直す

⑤再休職の際は、復職の条件を本人と主治医の双方と共有しておく

⑥雇用関係の終了を検討するのは、回復の機会を実質的に与えた後

これらはいずれも、紛争が起きてから整えられるものではありません。とりわけ就業規則の休職規定は、問題が生じた後に変更しても、その従業員には適用できません。

メンタル不調全般の対応については、メンタル不調の社員への対応|休職・復職・退職の判断にまとめています。

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2006年、福岡県弁護士会に弁護士登録。
企業法務(使用者側での労務問題、契約書チェック、コンプライアンス体制の整備)、交通事故での損害賠償請求、相続、離婚などの家事事件、企業の事業再生・債務整理その他一般民事、刑事事件等に取り組む。
企業内の研修やセミナー開催の実績多数。
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