副業が発覚したとき、懲戒処分はできるか——競業避止・職務専念義務違反の実務上のハードルを弁護士が解説

「営業成績が振るわない社員を調べたら、実は副業をしていた」「退職した元従業員が、在職中から競合他社の仕事を請け負っていたことが発覚した」——副業・兼業をめぐる相談の多くは、制度設計の段階ではなく、こうした発覚型のトラブルとして持ち込まれます。

本コラムでは、副業が非違行為として発覚した場面を中心に、会社側が懲戒処分を検討する際の法的なハードルと、実務上のチェックポイントを解説します。

1.副業・兼業をめぐる規制は原則禁止から原則許可制へ

従来、多くの企業では就業規則で副業・兼業を全面的に禁止することが一般的でした。しかし、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であり、全面的な副業禁止規定は、労働時間外の行動の自由を不当に制約するものとして無効と判断されるリスクがあります。

厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年策定、令和4年改定)も、原則として労働者は副業・兼業を行うことができ、例外的に一定の事由がある場合に限り禁止・制限できるという設計を推奨しています。近年は、採用力の強化や離職率の低下といった観点からも、原則禁止から原則許可制へ移行する企業が増えています。

ただし「原則許可制」であっても、無制限に副業を認めるわけではありません。就業規則において、以下のいずれかに支障がある場合には副業・兼業を禁止・制限できることとしておくのが一般的な設計です。

① 労務提供上の支障がある場合(職務専念義務)
② 業務上の秘密が漏洩する場合(秘密保持義務)
③ 競業により自社の利益が害される場合(競業避止義務)
④ 自社の名誉・信用を損なう、または信頼関係を破壊する行為がある場合(誠実義務)

2.労働時間の通算を見落とさないこと

副業・兼業をめぐる制度上の論点として、実務上ほとんど認識されていないのが労働時間の通算です。労働基準法第38条第1項は、事業主を異にする複数の事業場で働く労働者について、労働時間を通算して管理することを義務付けています。

この通算のルールは、先に労働契約を締結した会社の所定労働時間から順に通算し、通算の結果、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超える部分については、後から契約を締結した会社に割増賃金の支払い義務が生じるという仕組みになっています。つまり、自社が「後から契約した会社」に当たる場合、従業員の副業先での労働時間次第では、自社が把握していない部分について割増賃金の支払い義務を負う可能性があるのです。

この論点が実務でほとんど認識されない理由は2つあります。一つは経営者側の知識不足、もう一つは従業員側が副業の詳細を積極的に話そうとしないことです。時間外労働の管理を厳格に行っている会社ほど、かえって従業員が副業の実態を申告しにくくなり、情報が上がってこないという逆説的な状況が生じることもあります。副業を許可制にする際は、副業先での労働時間・業務内容を申告させる仕組みを併せて設けておくことが重要です。

3.副業の発覚によって懲戒処分を行うには?2つの義務違反とそのハードルの高さ

副業が発覚した場合、会社が懲戒処分を検討するにあたっては、主に競業避止義務違反と職務専念義務違反の2つが問題になります。しかしいずれも、実際に懲戒処分として成立させるには相応のハードルがあります。

競業避止義務違反——就業規則の条項設計が前提

競合他社での副業を理由に懲戒処分を行うためには、そもそも就業規則に「副業は認めるが、競合他社での就労は禁止する」といった条項が明確に定められていることが前提となります。単に「副業を原則禁止とする」という一般的な条項だけでは、競業避止義務違反を読み込むことは困難です。「副業自体は許可されていたが、その相手が競合他社だったから問題になる」という構造を、就業規則上で明確にしておく必要があります。

職務専念義務違反——本業への影響の立証が必要

職務専念義務違反を理由とする場合は、副業によって本業の職務遂行に具体的な支障が生じたことを立証する必要があり、これは容易ではありません。裁判例では、この立証のハードルが厳格に運用されています。

十和田運輸事件(東京地判平成13年6月5日)は、運送会社の運転手が年1〜2回の貨物運送のアルバイトを行っていたことを理由とする解雇について、職務専念義務違反や信頼関係の破壊とまではいえないとして解雇無効と判断しました。
一方、小川建設事件(東京地決昭和57年11月19日)は、毎日6時間にわたる深夜のキャバレーでの無断就労について、余暇利用のアルバイトの域を超え、労務の誠実な提供に支障を来す蓋然性があるとして、会社の対応を是認しています。

この対比からわかるのは、副業の頻度や時間帯、本業に与えると思われる影響の有無・程度が、懲戒処分の可否を分ける重要な要素だということです。

簡単に言えば、夜間・休日に行われる程度の副業であれば、それだけで本業への支障を認定することは難しく、普通解雇であっても無効と判断されるリスクが高くなります。

4.懲戒処分に踏み切る前に確認すべきこと

営業成績の不振の原因を調査した結果として副業が発覚した、というような「発覚型」のケースでは、懲戒処分に踏み切る前に以下の点を検証する必要があります。

① 会社の副業禁止・制限の趣旨に、当該副業が実際に反しているかどうか
② 副業における業務内容・実施時間帯・頻度
③ その副業によって過去に本業へ具体的な悪影響が生じた事実があるか
④ 副業の実施について、会社側からこれまでに注意喚起・指導が行われていたか

特に④は見落とされがちですが重要です。会社が副業の存在を認識しながら特に注意もしてこなかった場合、突然の懲戒処分は「唐突な処分」として手続きの相当性を欠くと評価されるリスクがあります。発覚した時点でまず注意・指導を行い、それでも改善がなければ処分を検討するという段階を踏むことが、懲戒処分の有効性を高めるうえで重要です。

また、競業避止義務違反が疑われる場合は、実際にどの程度自社の利益が害されたか(顧客の流出・営業機会の喪失等)を具体的に把握することが、懲戒処分の相当性を基礎付けるうえで重要な材料になります。

5.副業を許可制で運用する場合の実務上の備え

今後の紛争を予防する観点からは、副業を許可制とする場合、届出制と合わせて以下を整えておくことが望ましいといえます。

① 副業の内容・就業先・実施時間帯を申告させる届出書の整備
② 競合他社での副業を禁止する旨の明確な就業規則上の規定
③ 秘密保持・情報漏洩防止に関する誓約事項の取得
④ 副業先での労働時間の申告と、通算した労働時間管理の仕組み
⑤ 副業の実施状況について、定期的な確認・注意喚起の実施

これらの仕組みを事前に整えておくことで、実際に副業が発覚した際に、どういった義務違反があるかということを検証するための基準が明らかとなり、その基準に沿って調査することで、会社として実施する懲戒処分の相当性が認められるかどうかも判断がしやすくなります。

まとめ

① 副業・兼業をめぐる相談の多くは、制度設計ではなく発覚型のトラブルとして持ち込まれる。営業不振の調査や競合先での就労の発覚が典型例。

② 全面禁止の副業規定は無効となるリスクがあり、原則許可制への移行が現在の主流。労働時間の通算義務は経営者・従業員双方に十分認識されていない盲点。

③ 競業避止義務違反は、副業自体を許可しつつ競合他社を禁止する条項設計が前提。職務専念義務違反は、本業への具体的な支障の立証が必要でハードルが高い。

④ 懲戒処分の前に、禁止の趣旨との整合性・本業への実際の悪影響・会社側のこれまでの指導状況を検証することが必要。

⑤ 許可制の運用には、届出制・競業避止条項・秘密保持誓約・労働時間通算の仕組みをあらかじめ整備しておくことが、将来の紛争予防と懲戒処分の実効性確保の両面で重要。

当事務所では、副業・兼業に関する就業規則の整備から、実際に副業が発覚した場合の懲戒処分の可否判断・手続対応まで、使用者側の立場でサポートしています。「営業成績の不振を調べたら副業が見つかった」というような場面でも、処分に踏み切る前にご相談いただくことで、適切な対応方針を立てることができます。

退職した元従業員による競業避止義務違反への対応については「退職した元従業員に顧客を奪われたときの競業避止義務違反」を、懲戒処分における弁明の機会については「懲戒処分をするには弁明の機会の付与が必要か」をあわせてご参照ください。

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2006年、福岡県弁護士会に弁護士登録。
企業法務(使用者側での労務問題、契約書チェック、コンプライアンス体制の整備)、交通事故での損害賠償請求、相続、離婚などの家事事件、企業の事業再生・債務整理その他一般民事、刑事事件等に取り組む。
企業内の研修やセミナー開催の実績多数。
法律事務所として弁護士の質とサービスレベルの高さを磨き、地域経済、地域社会に貢献することを事務所の理念とする。

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