社労士と顧問弁護士の違い——両方がいる会社が強い理由

「社会保険労務士の先生に毎月お願いしているので、顧問弁護士までは必要ないのでは」。顧問契約のご相談の際、よくいただくご質問です。

結論から述べると、社労士と弁護士はどちらか一方を選ぶ関係ではありません。社労士の先生は労務の手続と制度づくりの専門家であり、弁護士は相手方と争いになったときの専門家です。守備範囲が違うため、両方がいる会社がもっとも強いというのが当事務所の考えです。

当事務所は使用者側の労務を専門としており、顧問先の社労士の先生方とは日常的に連携しています。本記事では、両者の業務範囲の違いと、顧問弁護士が必要になる場面を整理します。

1.社労士の業務範囲

1.1 手続と制度づくりの専門家

社会保険労務士の業務は、社会保険労務士法2条に定められています。中心となるのは次の業務です。

●労働保険・社会保険の手続、行政機関に提出する書類の作成と提出の代行

●就業規則、労働者名簿、賃金台帳など、労働関係の帳簿書類の作成

●労務管理や社会保険に関する相談・指導

給与計算、入退社の手続、助成金の申請、就業規則の作成と届出など、会社の労務を日々回していく仕事は、社労士の先生の領域です。この分野の実務については、弁護士よりも社労士の先生のほうがはるかに詳しく、当事務所も多くの場面で頼りにしています。

1.2 特定社会保険労務士——ADRでの代理

社労士のうち、紛争解決手続代理業務試験に合格して付記を受けた方は特定社会保険労務士と呼ばれ、次の手続で当事者を代理することができます(社会保険労務士法2条1項1号の4〜1号の6、2項)。

●都道府県労働局の紛争調整委員会が行うあっせん

●都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争のあっせん

●厚生労働大臣が指定する団体が行う、個別労働関係紛争の民間紛争解決手続(ADR)

このうち民間のADRでは、紛争の目的の価額が120万円を超える場合、弁護士が同じ依頼者から受任していることが必要とされています。また、これらの代理には、手続の中での和解の交渉や、和解契約の締結も含まれます(同条3項)。

さらに、裁判所の手続では、社労士は補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述することができます(同法2条の2)。

つまり特定社労士であっても、代理できるのはあっせんやADRといった話し合いの手続に限られ、労働審判や訴訟で会社の代理人になることはできません。

2.弁護士にしかできないこと

2.1 労働審判・訴訟の代理

弁護士でない者が、報酬を得る目的で、法律事件について代理や和解などの法律事務を取り扱うことは、弁護士法72条により禁止されています。労働審判についても、法令で裁判上の行為が認められた代理人のほかは、弁護士でなければ代理人になれないと定められています(労働審判法4条1項)。

従業員から解雇の無効を主張されて労働審判を申し立てられた場合、会社の代理人として答弁書を書き、期日に出頭して主張し、調停の条件を交渉できるのは弁護士だけです。労働審判は原則として3回以内の期日で審理を終えるため、第1回期日までの準備で結論の大半が決まります。

2.2 紛争になったあとの見通しと交渉

代理だけでなく、争いになったときにどうなるかを見通すことも弁護士の役割です。この解雇は裁判所で有効と判断されるか、この懲戒処分は重すぎないか、和解するならどの水準が妥当か。こうした判断は、裁判例と自身の訴訟の経験をもとに行う、弁護士の本来の仕事です。

2.3 両者の違いのまとめ

場面 社労士 弁護士
労働保険・社会保険の手続 ○(専門領域) —
給与計算・助成金の申請 ○(専門領域) —
就業規則の作成・届出 ○ ○
労務管理の日常的な相談 ○ ○
労働局・労働委員会のあっせんの代理 特定社労士のみ ○
民間ADRの代理 特定社労士のみ(120万円超は弁護士との共同受任が必要) ○
労働審判・訴訟の代理 ×(補佐人として弁護士と出頭することは可) ○
相手方との紛争についての交渉の代理 ×(上記の手続内の和解交渉を除く) ○

3.「これは弁護士に」と言われる段階では、すでに紛争になっている

当事務所には、顧問先の社労士の先生から「この件は弁護士に相談したほうがよい」とご紹介をいただくケースが少なくありません。社労士の先生が、ご自身の守備範囲を超えると判断されたときです。

ただ、その時点で状況を伺うと、すでに紛争が始まっていることがほとんどです。従業員の代理人弁護士から内容証明が届いた、労働組合から団体交渉を申し入れられた、労働審判の申立書が裁判所から届いた。当事務所でも、団体交渉や労働審判の段階で初めてご相談をいただくケースが多くあります。

この段階から弁護士を探すと、事務所を選び、会社の事情や就業規則を一から説明するところから始まります。労働審判であれば、申立てから第1回期日まで原則として40日以内しかありません。その時間の多くが、弁護士に事情を理解してもらうことに使われてしまいます。

顧問弁護士がいれば、会社の事情も就業規則もすでに把握しているため、初日から中身の検討に入ることができます。そして何より、紛争になる前の段階、たとえば解雇や懲戒を決める前にご相談いただければ、争いになりにくい進め方を一緒に考えることができます。

4.就業規則は「作るとき」と「争いになったとき」で見方が変わる

就業規則の作成は社労士の先生の専門領域であり、労働基準法に沿った規則を整え、届出まで行っていただけます。

一方で当事務所では、社労士の先生が作成された就業規則が、解雇や懲戒処分の場面で争点になる事案にも対応してきました。規則そのものに問題があるというより、作るときに想定する場面と、争いになったときに裁判所が読む場面とが違うことが原因です。懲戒事由の書き方が抽象的で処分の根拠として争われる、休職期間満了による退職の規定が実際の運用と合っていない、といった形で問題になります。

そのため、就業規則を作るとき、あるいは改定するときに、社労士の先生が作成した案を弁護士が「争いになったらどう読まれるか」という目で確認するという分担が効果的です。就業規則を整備する時期や、整備していない場合のリスクについては、就業規則を整備していない会社が直面するリスクと、弁護士が勧める整備のタイミングでご説明しています。

5.社労士と顧問弁護士が両方いる会社が強い理由

社労士の先生と顧問弁護士の両方がいる会社では、日々の手続と制度づくりは社労士の先生が担い、判断に迷う場面や争いになりそうな場面で弁護士に相談する、という分担ができます。

この分担がうまく回るのは、社労士の先生と弁護士が互いの役割を理解して連携しているときです。当事務所では、顧問先の社労士の先生と直接やりとりをさせていただくことも多く、たとえば次のような形で連携しています。

●就業規則の改定案を、社労士の先生が作成し、当事務所が紛争の観点から確認する

●問題社員への対応について、社労士の先生が把握している勤怠や手続の情報をもとに、当事務所が法的な進め方を助言する

●紛争になった場合は、当事務所が会社の代理人として対応し、社労士の先生には手続面で引き続きご協力いただく

顧問弁護士を置くことは、社労士の先生のお仕事を置き換えることではありません。社労士の先生が安心して手続と制度づくりに専念できる体制をつくることだと考えています。

6.顧問弁護士の費用

当事務所の顧問料は従業員数によって決まり、法律相談は回数・時間とも制限していません。社労士の先生がいらっしゃる会社様でも、迷ったときに気軽にご相談いただける体制を前提にしています。料金体系の考え方と顧問料の相場については、顧問弁護士の費用相場で、具体的な料金は顧問契約プランのご案内でご案内しています。

7.まとめ

社労士の先生は労務の手続と制度づくりの専門家であり、特定社労士であってもあっせんやADRの代理にとどまります。労働審判や訴訟で会社の代理人になれるのは弁護士だけです。

そして、社労士の先生から「これは弁護士に」と言われる段階では、多くの場合すでに紛争が始まっています。社労士の先生と顧問弁護士の両方がいて、互いに連携している会社が、もっとも早く、もっとも有利に問題に対応できます。

使用者側の労働問題について、ご相談をお待ちしております。

当事務所は使用者側の労務案件を専門とし、労働者側のご依頼はお受けしておりません。初回のご相談では、現状をお伺いしたうえで、想定される見通しと費用の概算をお伝えします。

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2006年、福岡県弁護士会に弁護士登録。
企業法務(使用者側での労務問題、契約書チェック、コンプライアンス体制の整備)、交通事故での損害賠償請求、相続、離婚などの家事事件、企業の事業再生・債務整理その他一般民事、刑事事件等に取り組む。
企業内の研修やセミナー開催の実績多数。
法律事務所として弁護士の質とサービスレベルの高さを磨き、地域経済、地域社会に貢献することを事務所の理念とする。

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