日本で働く外国人労働者は200万人を超え、多くの企業にとって外国籍の社員はもはや特別な存在ではなく不可欠な戦力になっています。その一方で、在留資格の理解不足からトラブルに発展するケースも後を絶ちません。本稿では、使用者側弁護士の立場から、外国人労働者の雇用・在留資格をめぐる実務上の注意点を解説します。
1.外国人労働者をめぐる相談で実際に多い場面
相談として意外に多いのが、外国人従業員が交通事故を起こした後、そのまま出勤しなくなってしまうというケースです。事故そのものの対応もさることながら、本人と連絡が取れなくなった結果、在留資格の更新手続や雇用関係の整理をどう進めればよいか分からなくなり、会社側が対応に苦慮する場面が繰り返し見られます。外国人労働者の雇用管理では、日本人従業員であれば単なる労務管理の問題で済む出来事が、在留資格の帰趨に直結してしまう点に特有の難しさがあります。
もう一つよくあるのが、資格外活動が疑われる相談です。典型的なのは、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で採用したエンジニアやシステム担当の外国人社員に、人手不足の現場を助けてもらうつもりで、繁忙期だけ倉庫整理や接客を手伝わせていたというパターンです。会社側に強い悪意があるわけではなく、「少しくらいなら」「本人も協力的だったから」という程度の認識であることが多いのですが、在留期間更新の申請時に入管から実際の業務内容を確認され、資格外活動に当たるのではないかと初めて不安になって相談に来られるケースが目立ちます。この段階で発覚すると、本人の在留資格更新が危ぶまれるだけでなく、会社側も不法就労助長罪のリスクを負っていたことに気づき、対応に追われることになります。
2.在留資格の三分類と、企業が最初に押さえるべき視点
在留資格は約30種類ありますが、まず「働けるかどうか」という観点から次の3つに整理して理解しておくと実務上の判断がしやすくなります。
●活動制限のない資格(身分系ビザ)——「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」であり、日本人と同様にどのような業務にも従事できます。ただし「日本人の配偶者等」は離婚・死別により資格を失う可能性があるため、更新時期の管理には注意が必要です。
●職種が限定される資格(就労系ビザ)——「技術・人文知識・国際業務」(いわゆる技人国)、「特定技能」、「技能」等であり、許可された専門範囲の業務しか行えません。入管法2条の2により、外国人は付与された在留資格の範囲内でのみ活動が認められており、範囲外の業務に従事させると「資格外活動」として法違反になります。
●原則就労不可だが条件付きで可能な資格——「留学生」「家族滞在」であり、資格外活動許可を得ることで週28時間以内のアルバイトが可能になります。この28時間には残業時間も含まれ、複数のアルバイトを掛け持ちしている場合は合計で28時間以内でなければなりません。
3.採用時の在留カード確認——「見ただけ」では過失を免れない
採用時の在留カード確認は、単に提示を受けて目視するだけでは不十分です。実務上は次の順序で確認することをお勧めします。
①カード表面の「就労制限の有無」欄を確認する。「就労制限なし」であればそのまま採用可能ですが、「就労不可」の場合は裏面に資格外活動許可の記載がない限り一切就労させられません。「指定書により指定された就労活動のみ可」の場合は、パスポートに添付された指定書で自社での就労が認められているかを個別に確認する必要があります。②偽造カードでないかを確認する。ホログラムの色の変化や「MOJ」の透かし文字といった物理的な確認に加え、出入国在留管理庁の在留カード等番号失効照会システムでカード番号の有効性を確認することが望ましいといえます。③在留期限が切れていても、裏面に「在留資格変更許可申請中」等の記載があれば、結果が出るまで又は期限から2か月間は適法に就労を継続できますが、申請が不許可になった時点で不法滞在となるため、会社は直ちに就労を停止させる必要があります。
4.不法就労助長罪と会社側のリスク
在留資格の範囲を超えて外国人を就労させた場合、本人が退去強制の対象となるだけでなく、会社側は不法就労助長罪(入管法73条の2)という刑事罰のリスクを負います。同条1項は、事業活動に関し外国人に不法就労活動をさせた者等に対し、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金(又はこれらの併科)を科すと定めています。2024年の入管法改正により、2027年4月1日以降はこの罰則が5年以下の懲役・500万円以下の罰金へと厳罰化される予定であり、企業側の管理責任は今後さらに重くなります。
特に注意すべきは、同条2項が「知らなかった」ことを理由とする免責を、過失がない場合を除き認めていない点です。単にカードのコピーを取っただけといった形式的な確認では、偽造カードに騙された場合に「過失あり」と評価される可能性があります。カードの真正性確認に加え、本人の経歴・専門性と在留資格の内容に矛盾がないかまで確認して初めて、客観的かつ合理的な確認を行ったと評価されやすくなります。
2021年には、大手食品メーカーが人材派遣会社を通じて受け入れていたネパール国籍の従業員6名について、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格でありながら資格外の製造業務に従事させていたとして、警視庁により書類送検される事案が発生しました(2022年3月、東京地検は不起訴処分)。この事案は派遣先企業が実行犯又は共犯として立件され得ることを示した点で注目されました。従業員に対する法的な処罰にとどまらず、会社側にも刑事責任や、取引先との契約不履行といった対外的な信用リスクが生じ得ることを踏まえた管理体制が必要です。
また、不法就労そのものに至らなくても、すべての外国人労働者について入社時・離職時にハローワークへ届け出る「外国人雇用状況の届出」(労働施策総合推進法)を怠ると、1人につき最大30万円の罰金の対象になります。実務上見落とされがちな義務なので、あわせて確認しておく必要があります。
5.技能実習から特定技能へ——制度の建付けを理解しないまま採用する危うさ
実務上よく問題になるのが、そもそも従事させている業務が技能実習の対象として認められる技能の習得に当たるのかどうかという入口の問題です。技能実習は「技術移転による国際貢献」を目的とする制度であり、実習生に行わせる業務は、習得させるべき技能の内容として認定計画に沿ったものでなければなりません。単純な人手不足の穴埋めとして、計画にない業務に従事させている実態があれば、それ自体が制度趣旨からの逸脱として問題になり得ます。
この技能実習制度は、転籍が原則認められない構造や、実習生が来日前に送出機関へ多額の債務を負う構造等がかねてから問題視されており、2024年の改正法により、2027年までに「育成就労制度」へ移行することが決まっています。新制度では、目的が国際貢献から人材確保・育成へと明確化されるほか、一定の就労期間・日本語能力等の要件を満たせば本人の希望による転籍が可能になり、さらに3年間就労すれば試験なしで特定技能1号へ移行できる仕組みが整備されます。技能実習から特定技能への移行を前提とした制度設計になっている以上、企業側としても、目先の受入れだけでなく、その先の特定技能への移行や転籍のしやすさまで見据えた人材育成計画を持つことが求められます。この制度の全体像を理解しないまま、技能実習と特定技能を単なる別々の在留資格として個別に対応している企業が少なくない印象があり、将来的な労務トラブルの芽になりかねません。
6.外国人労働者特有の雇用管理上の注意点
外国人労働者の雇用管理では、日本人労働者にはない特有の視点が必要になります。一つは準拠法の問題です。雇用契約に本国の法令が及ぶ場面や、労働契約書に定める準拠法の選択が問題になる場面があり、渉外的要素を含む雇用関係であることを意識した契約書の整備が必要になることがあります。
もっとも実務上圧倒的に重要なのは、仕事がなくなることが直ちに在留資格の存続に影響するという点です。就労系の在留資格は、その資格に対応する活動を継続していることが前提になっており、解雇や雇止めによって収入や稼働実態が失われると、在留資格の更新や変更審査に不利に働く可能性があります。日本人従業員の解雇であれば労働契約上の問題にとどまるところ、外国人従業員の場合は本人の在留資格そのものを左右しかねないという重みを、会社側も認識しておく必要があります。解雇・雇止めを検討する場面では、労働法上の適法性に加えて、本人の在留資格への影響についても事前に説明できる状態にしておくことが望ましいといえます。
7.まとめ
外国人労働者の雇用では、在留資格の範囲内で就労させているかという入口の確認、在留カードの実質的な確認体制の整備、そして技能実習から特定技能への制度移行を踏まえた人材育成計画が、いずれも会社を守るために欠かせません。特に不法就労助長罪は「知らなかった」では済まされない過失犯であり、2027年の厳罰化も控えています。外国人労働者の採用・在留資格対応でお悩みの企業の方は、使用者側の労務問題に精通した弁護士へのご相談をご検討ください。
2006年、福岡県弁護士会に弁護士登録。
企業法務(使用者側での労務問題、契約書チェック、コンプライアンス体制の整備)、交通事故での損害賠償請求、相続、離婚などの家事事件、企業の事業再生・債務整理その他一般民事、刑事事件等に取り組む。
企業内の研修やセミナー開催の実績多数。
法律事務所として弁護士の質とサービスレベルの高さを磨き、地域経済、地域社会に貢献することを事務所の理念とする。
※日本全国からのご相談に対応しております。





