「取締役を解任したいが、株主総会の手続きはどうすればよいか」「毎年、株主総会を形式的に開いているが議事録の作り方が不安」——株主総会・取締役会の運営について、会社法の手続きを正確に理解している経営者は多くありません。手続きの瑕疵が、後日の紛争で致命的な弱点になることがあります。
本コラムでは、非公開の中小企業を前提に、株主総会・取締役会の運営実務を会社法の条文に沿って整理します。省略できる手続きと省略できない手続きの区別、手続きの瑕疵が効力に与える影響まで、この記事で確認できる構成としています。
1.株主総会の基本的な仕組み
(1) 定時株主総会と臨時株主総会
株主総会には2種類あります。定時株主総会は毎事業年度終了後の一定時期に開催するもの(会社法第296条第1項)で、計算書類の承認・役員選任・剰余金の配当などが典型的な決議事項です。臨時株主総会は、必要が生じた際に随時開催するものです(同条第2項)。取締役の解任・定款変更・増資といった事項が生じた際に開催します。
(2) 普通決議・特別決議・特殊決議の区別
株主総会の決議方法は議案の重要度によって3種類に分かれます。
① 普通決議(会社法第309条第1項)——議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で可決。取締役の選任・解任、役員報酬の決定、計算書類の承認などが対象。
② 特別決議(会社法第309条第2項)——議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上で可決。定款変更、減資、合併・会社分割などが対象。定款で要件を加重することができます。
③ 特殊決議(会社法第309条第3項・第4項)——全株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上など、さらに厳格な要件。非公開会社化(譲渡制限の設定)などが対象。
実務上注意が必要なのは、取締役の解任が普通決議事項であるという点です。定款で3分の2以上と加重されていない限り、過半数の賛成で解任できます。
2.招集手続——非公開の中小企業に適用されるルール
(1) 招集の決定権者
取締役会設置会社では、株主総会の招集は取締役会の決議で決定し、代表取締役が招集します(会社法第298条第4項、第296条第3項)。
取締役会の決議を経ずに株主総会が招集された場合の効力は、⑯のコラム(取締役の責任・役員トラブル)で詳しく解説していますが、要点を再掲します。代表取締役が招集した場合は取消事由(最判昭和46年3月18日)、代表取締役以外が招集した場合は決議不存在(最判昭和45年8月20日)という区別があります。取締役の解任など重要な決議を行う総会では、必ず取締役会決議を先行させる必要があります。
(2) 招集通知の発送期限
非公開会社(全株式に譲渡制限がある会社——中小企業の大多数が該当)では、株主総会の日の1週間前までに招集通知を発すれば足ります(会社法第299条第1項)。公開会社(上場会社等)の2週間前より短く設定されています。
ただし以下の場合は、非公開会社であっても2週間前が必要です。
- 書面投票制度を採用する場合(会社法第298条第1項第3号)
- 電子投票制度を採用する場合(同項第4号)
また、非公開会社かつ取締役会非設置会社であれば、定款で1週間をさらに下回る期間(3日・5日など)を定めることが可能です(会社法第299条第1項括弧書)。ただし、取締役会設置会社はこの短縮ができません。
(3) 招集通知の記載事項
招集通知の必要記載事項は、会社法第299条第4項・第298条第1項に定められています。
- 株主総会の日時・場所
- 株主総会の目的事項(議題)
- 書面投票・電子投票を採用する場合にはその旨
- その他法務省令で定める事項
議題として記載されていない事項は、原則として株主総会で決議することができません(会社法第309条第5項)。解任議案を決議したいのに招集通知に記載がなかった、という失敗が実務上よくあります。
(4) 招集手続の省略——全員の同意がある場合
株主全員の同意があれば、招集手続を省略して株主総会を開催することができます(会社法第300条)。株主が少数で全員の同意が取れる中小企業では、この方法が実務上よく使われます。ただし書面投票・電子投票を採用する場合は省略できません。
3.手続きの省略——書面決議・書面報告
(1) 書面決議(みなし決議)——実際に集まらずに可決できる
取締役または株主が株主総会の目的事項について提案を行い、議決権を有する株主全員が書面または電磁的記録によって同意の意思表示をした場合、株主総会の決議があったとみなされます(会社法第319条第1項)。
株主が少数で同意が取りやすい中小企業では非常に有用な方法です。決議事項の種類に制限はなく、定時株主総会の開催省略、特別決議事項(定款変更等)にも利用できます。
書面決議の場合でも、議事録の作成は必要です(会社法第319条第2項)。決議があったとみなされた日・提案内容・全員同意の事実を記録します。
ただし、取締役会設置会社において書面決議を行う場合、取締役が提案者となるには取締役会決議が必要かどうかという論点があります。会社法第319条第1項は取締役が提案できるとしていますが、実際に株主総会を開催する場合には取締役会決議が先行して必要なことから(会社法第298条第1項・第4項)、書面決議の提案に際しても取締役会決議を経ておくことが実務上無難です。
(2) 書面報告——報告事項も省略できる
取締役が株主全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知し、株主全員が書面または電磁的記録により当該事項を株主総会に報告することを要しない旨の同意をした場合、当該事項の株主総会への報告があったとみなされます(会社法第320条)。
4.一人株主・家族株主の会社では——実務上ほとんど省略できる
株主が一人または家族のみという会社で、株主間の関係が良好であれば、株主総会の手続きはほぼすべて省略できます。具体的には、書面決議(会社法第319条)と書面報告(同第320条)を組み合わせることで、実際に株主が集まる必要はなく、書面のやり取りだけで定時株主総会の手続きを完了させることができます。
問題になるのは、将来にわたって株主間の関係が良好であり続けるかどうかです。家族株主であっても、相続が発生して相続人間で争いが起きた場合や、株主間の意見対立が生じた場合には、省略していた手続きの瑕疵が問題化します。
紛争の可能性がある会社では、省略に頼らず正規の手続きで運営しておくことが、将来の紛争に備えた実務上の判断です。
5.取締役会の運営——議事録だけ作成することのリスク
(1) 取締役会の開催義務
取締役会は、取締役全員で構成し、業務執行の決定・取締役の職務執行の監督・代表取締役の選定・解職を行う機関です(会社法第362条)。法律上は定期的な開催義務があり(会社法第363条第2項・最低3か月に1回)、実際に開催したうえで議事録を作成することが求められています。
(2) 開催しないまま議事録だけ作成することの問題
実際には取締役会を開催していないにもかかわらず、議事録だけを作成しているケースがあります。この取り扱いには重大なリスクがあります。
まず、株主総会の有効性の問題です。取締役会設置会社では、株主総会の招集決定は取締役会決議を要します。取締役会が実際には開催されていなければ、その「決議」は存在せず、そこで行われた株主総会決議は取消事由、場合によっては不存在となるリスクがあります。
次に、虚偽の議事録作成という問題です。実際には開催していない取締役会の議事録を作成することは、内容虚偽の文書作成にあたり得ます。金融機関への提出、登記申請への添付など、議事録が公的場面で使用される場面では特に問題となります。
取締役会を実際には開催できない事情がある場合でも、書面決議(みなし決議)という方法があります。取締役の全員が書面または電磁的記録によって同意の意思表示をした場合、取締役会決議があったとみなされます(会社法第370条)。実際に集まることなく取締役会決議を適法に行う方法として活用できます。
(3) 取締役会の書面決議が使えない事項
取締役会の書面決議には例外があります。定時株主総会に提出する計算書類・事業報告の承認(会社法第436条第3項)については、取締役会の書面決議を使うことができません(会社法第370条ただし書・会社法施行規則第101条第4項第1号)。これらについては実際に取締役会を開催して承認する必要があります。
6.議事録の作成と保存
(1) 作成義務と保存期間
株主総会の議事録は本店に10年間、支店に5年間の備置義務があります(会社法第318条第2項・第3項)。取締役会の議事録は本店に10年間の備置義務があります(会社法第371条第1項)。株主・債権者・裁判所から閲覧・謄写を求められることがあるため、正確な記録として保存しておく必要があります。
(2) 議事録への署名・記名押印
株主総会の議事録については、会社法上は出席した取締役・監査役の署名・記名押印は義務付けられていません(会社法第318条)。ただし、定款で署名・押印を義務付けている会社があります。
取締役会の議事録については、出席した取締役・監査役全員が署名・記名押印をすることが義務付けられています(会社法第369条第3項)。ただし、電子署名を用いる場合は押印に代えることができます(会社法第369条第4項)。
(3) 電子署名・クラウド保存への対応
令和元年改正により、取締役会議事録への電子署名が明文で認められました。また、法務省の見解により、クラウドサービスを利用した電子署名でも要件を満たすことが確認されています。ペーパーレス化・リモート対応の観点から、電子署名の活用は実務上広がっています。
7.実際に問題になる場面——解任を検討する際の手続き確認
取締役の解任を検討する際、手続き面で最初に確認すべきことは次の通りです。
① 持株比率の確認——解任は普通決議(過半数の賛成)で可能です(会社法第339条第1項)。ただし定款で3分の2以上と加重されている場合は、その要件を満たす必要があります。過半数を確保できるかを先に確認します。
② 取締役会での招集決議——取締役会設置会社では、解任議案を付議する株主総会の招集を取締役会で決議する必要があります。この手続きを省略すると、株主総会決議の取消事由となります。
③ 招集通知への議案記載——「取締役○○を解任する件」を招集通知の議題として明記します。議題に記載がない事項は決議できないためです。
④ 「正当な理由」の有無の検討——解任自体は手続きを踏めば可能ですが、正当な理由がなければ残任期分の損害賠償請求を受けます(会社法第339条第2項)。この点は⑯のコラム(取締役の責任・役員トラブル)で詳しく解説しています。
まとめ
① 非公開の中小企業の株主総会は、原則として1週間前の招集通知で足りる。取締役会設置会社では取締役会決議→代表取締役による招集という手順が必要。
② 招集手続の省略(全員同意・会社法第300条)と書面決議(全員同意・同第319条)は、株主が少数の中小企業で実務上広く使える。ただし紛争の可能性がある会社では正規の手続きで運営しておく。
③ 実際には開催せず議事録だけ作成する取締役会は、株主総会決議の有効性問題と虚偽文書作成のリスクを生じさせる。開催できない場合は書面決議(会社法第370条)を使う。ただし計算書類・事業報告の承認には書面決議を使えない。
④ 取締役の解任を検討する際は、持株比率→取締役会での招集決議→招集通知への議案記載→正当な理由の有無、という順序で確認する。
⑤ 取締役会議事録には出席者全員の署名・記名押印が必要。電子署名による対応も可能。本店10年間の備置義務がある。
当事務所では、株主総会・取締役会の運営に関するアドバイスから、取締役の解任・役員間トラブルへの対応まで、会社側の立場でサポートしています。「株主総会を適法に開催できているか確認したい」「解任の手続きを一から教えてほしい」という段階でのご相談も承っています。
取締役の解任・正当な理由・損害賠償については「取締役を解任できるか——「正当な理由」の有無で報酬請求リスクが変わる」をあわせてご参照ください。
2006年、福岡県弁護士会に弁護士登録。
企業法務(使用者側での労務問題、契約書チェック、コンプライアンス体制の整備)、交通事故での損害賠償請求、相続、離婚などの家事事件、企業の事業再生・債務整理その他一般民事、刑事事件等に取り組む。
企業内の研修やセミナー開催の実績多数。
法律事務所として弁護士の質とサービスレベルの高さを磨き、地域経済、地域社会に貢献することを事務所の理念とする。
※日本全国からのご相談に対応しております。







