反社会的勢力(暴力団・暴力団関係者・総会屋等)との関わりを持つことは、企業にとって重大なレピュテーションリスクであり、場合によっては刑事・民事上の問題にもつながります。しかし、反社会的勢力は表向きには一般企業と区別がつかない形で活動することが多く、取引前に完全に見極めることは容易ではありません。
本コラムでは、反社会的勢力排除条項(暴排条項)の法的な意味と設計方法、取引先・従業員が反社であると判明した場合の対応、反社チェックの実務上の現実について解説します。
1.反社会的勢力とは——政府指針による定義
「反社会的勢力」とは、2007年6月に犯罪対策閣僚会議が公表した「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」において、「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人」と定義されています。暴力団・暴力団準構成員・暴力団関係企業・総会屋・社会運動標ぼうゴロ・特殊知能暴力集団等が含まれます。
注意が必要なのは、暴力団と無関係な単なるクレーマーや反社会的な言動をとる個人は、この定義に含まれないという点です。暴排条項の適用対象は、上記の定義に当てはまる者に限られます。
また、「元暴力団員(元暴)」については、暴力団を離脱してから一定期間(一般的に5年間)は反社会的勢力として扱う「元暴5年条項」を設ける契約書が増えています。これは、暴力団を脱退直後の者が実質的に影響力を維持しているリスクに対応したものです。
2.暴排条項の法的な意味と設計——なぜ必要か
企業に対して暴排条項を契約書に定める法的義務はありません。しかし、全都道府県で施行されている暴力団排除条例は、事業者に対して契約時に暴排条項を設けることを努力義務として定めています。加えて、政府指針も暴排条項の導入を推奨しており、現在では企業間取引の大多数の契約書に何らかの形で暴排条項が盛り込まれています。
暴排条項を設ける実務上の最大の意味は、取引相手が反社会的勢力であると判明した場合に、損害賠償責任を負うことなく契約を解除できる根拠を確保することです。暴排条項がない場合、相手方が反社であるという事実だけでは、通常の債務不履行や詐欺・錯誤を理由とする解除・取消しの要件を満たさない可能性があり、契約関係を断ち切ることが困難になります。
(1) 暴排条項の基本的な構成
暴排条項には一般的に以下の要素が含まれます。
① 表明確約条項——契約締結時に、自己が反社会的勢力でないこと、反社会的勢力と一定の関係を有しないことを相互に表明・確約する
② 不当要求行為の禁止条項——暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求行為、脅迫的な言動等を行わないことを相互に確約する
③ 違反時の解除条項——①または②に違反した場合、催告なしに契約を解除できる旨を定める
④ 損害賠償不要条項——上記解除によって相手方に損害が生じても、会社は賠償義務を負わない旨を定める
(2) 直接的な関係だけでなく間接的な関係も対象に
暴排条項は、自社が直接反社会的勢力でないことだけでなく、反社会的勢力に自己の名義を利用させないこと、反社会的勢力に資金提供・便宜供与をしないことまで対象とするのが一般的です。反社会的勢力のフロント企業や、関係者が実質的支配者となっている会社との取引を排除する実効性を持たせるためです。
3.取引先が反社と判明した場合の対応
(1) 暴排条項がある場合——無催告解除が可能
契約書に暴排条項が設けられており、取引先が反社会的勢力であることが判明した場合は、その条項に基づいて催告なしに直ちに契約を解除することができます。この場合、解除によって相手方に生じた損害について会社は賠償義務を負いません(条項で明記した場合)。
解除にあたっては、書面で解除通知を行い、記録を残しておくことが重要です。後日、相手方から「解除は無効」として争われた際に、解除の根拠と経緯を示す証拠になります。
(2) 暴排条項がない場合——解除の根拠が限られる
暴排条項がない場合、相手方が反社であるという事実だけで直ちに契約を解除することは困難です。通常の債務不履行解除(民法第541条・第542条)を主張するには、履行遅滞や履行不能などの事実が必要です。詐欺・錯誤を理由とする取消しを主張するには、契約締結時に反社と知っていれば契約しなかったという事実と、相手方の欺罔行為の立証が求められます。
暴排条項がない状態で取引先の反社性が判明した場合、法的手段による即時解除は困難であることを念頭に置いたうえで、期間満了・合意解除・自然消滅を目指す等の実務的対応を検討することになります。この経験が、今後の取引に暴排条項を設けることの重要性を示しています。
4.従業員が反社と判明した場合——懲戒解雇の可否
採用後に従業員が反社会的勢力の構成員または関係者であることが判明した場合、重要な経歴詐称を理由として懲戒解雇することが可能と考えられます。
根拠は、採用応募時に反社でないことを求められているにもかかわらず、それを隠して入社した行為は、採用の意思決定に影響する重要な事項についての詐称であるという点です。会社が反社会的勢力の構成員を雇用しないという方針を持ち、採用選考においてその確認をしていた事実(誓約書の取得等)があれば、より解雇の正当性が強固になります。
ただし、懲戒解雇が有効に成立するためには以下の前提が必要です。
① 就業規則に懲戒解雇事由として経歴詐称または反社会的勢力への該当が明記されていること
② 弁明の機会を与えるなど適正手続きを踏んでいること
③ 懲戒解雇という重い処分が当該事案の内容に照らして相当であること
就業規則が整備されていないまま懲戒解雇に踏み切ることは、処分の有効性を争われた際に会社側が不利になります。就業規則の懲戒事由の整備は、こうした緊急事態への備えとしても重要です。
なお、解雇前の段階で「この従業員が本当に反社であるか」の事実確認が必要です。不確かな情報に基づいて懲戒解雇した場合、解雇無効の判断を受けるリスクがあります。
5.不当要求への対応——毅然とした対応と組織的な対処
政府指針は、反社会的勢力からの不当要求への対応として、組織全体としての対応と警察・暴力団追放運動推進センター等との連携を基本原則として掲げています。担当者個人が単独で対応することを避け、組織的な対応体制を整備することが求められています。
具体的な対応上の原則として以下が示されています。
① 不当要求には応じない——一度でも要求に応じると、それが前例となり要求がエスカレートする
② 毅然とした態度で、弁護士・警察に相談する
③ 民事と刑事の両面から対応する——民事上の差止請求・損害賠償請求と、刑事告訴・被害届の提出を並行して検討する
④ 資金提供・利益供与を行わない——解決金・示談金等の名目での支払いも含む
6.反社チェックの実務——現実的にできることとその限界
取引前の反社チェックは、中小企業にとって現実的なコストと実効性のバランスが難しい問題です。
実務上取れる方法としては、以下が挙げられます。
① 誓約書・表明確約書の取得——取引開始前に、相手方が反社でない旨の誓約書を取得する。コストゼロで実施でき、後日判明した場合の解除根拠を明確にする効果がある。ただし虚偽の誓約をする相手には実効性が限られる
② インターネット・報道機関の検索——商号・代表者名・関係者名でのインターネット検索、新聞記事データベースの確認。無料で実施できる初歩的なスクリーニングとして有用
③ 信用調査会社の利用——帝国データバンク・東京商工リサーチ等の企業信用調査レポートの取得。費用はかかるが、取引規模が大きい場合には費用対効果がある
④ 反社チェックサービスの活用——専門の反社チェックサービスを提供するベンダーが増えており、データベース照合によるスクリーニングが可能
ただし、これらの方法で100%の検知が可能かというと、そうではありません。反社会的勢力は表向きには一般企業・個人と区別がつかない形で活動することが多く、専門機関でなければ見極めることは困難です。
現実的な結論として、反社チェックは「完全に排除する」ことを目標とするより、「万一の場合に契約を解除できる仕組みを整えておく」という視点で考える方が実務的です。暴排条項の整備と誓約書の取得が、中小企業にとってコストと実効性のバランスが取れた最善の対策といえます。
まとめ
① 反社会的勢力とは暴力団を中核とする概念。単なるクレーマーは含まれない。「元暴5年条項」を設けることで離脱直後の者にも対応できる。
② 暴排条項の設置は法的義務ではなく努力義務だが、取引先が反社と判明した際に無催告・損害賠償不要で契約解除できる根拠として機能する点に最大の意味がある。
③ 暴排条項がない場合、相手方が反社であるという事実だけでは通常の解除要件を満たさず、契約関係を断ち切ることが困難になる。
④ 従業員が反社と判明した場合は重要な経歴詐称として懲戒解雇が可能。就業規則への明記・弁明の機会の付与・事実確認が前提条件。
⑤ 反社チェックで100%の排除は困難。「判明した場合に契約解除できる仕組みの整備」(暴排条項+誓約書)が中小企業にとって最も現実的な対策。
当事務所では、契約書への暴排条項の設計・整備から、取引先・従業員の反社性が判明した場合の対応まで、顧問先の企業法務として対応しています。就業規則の懲戒解雇事由の整備については「就業規則の作成・変更手続きの完全ガイド」も、契約書設計全般については「契約書を受け取ったら、まずここを見る」をあわせてご参照ください。
2006年、福岡県弁護士会に弁護士登録。
企業法務(使用者側での労務問題、契約書チェック、コンプライアンス体制の整備)、交通事故での損害賠償請求、相続、離婚などの家事事件、企業の事業再生・債務整理その他一般民事、刑事事件等に取り組む。
企業内の研修やセミナー開催の実績多数。
法律事務所として弁護士の質とサービスレベルの高さを磨き、地域経済、地域社会に貢献することを事務所の理念とする。
※日本全国からのご相談に対応しております。







