障害者雇用の合理的配慮は「努力義務」ではない——法的義務の範囲と過重な負担の判断基準を使用者側弁護士が解説

現在、障害者雇用をめぐっては、上場企業を中心に、使用者側も必要性に対する理解が進んでいます。ただ、現状では、実際の採用や配置の場面はもちろんのこと、雇用後の日々の配慮の在り方そのものが、会社にとって悩みの種となっています。
特に、障害者差別解消法(2024/4/1施行)が求める「合理的配慮」について、具体的にどこまでが会社の義務だと考えればいいのか、どこからが行き過ぎた特別扱いになるのかという線引きは、実務上非常に判断が難しいところです。
本稿では、使用者側弁護士の立場から、障害者雇用と合理的配慮の提供義務をめぐる実務上の注意点を解説します。

1.障害者雇用をめぐる相談で実際に多い場面

弊所に寄せられる相談の中には、例えば、障害のある従業員同士の人間関係に会社が巻き込まれたというケースもあります。

以前、就労継続支援事業所において、利用者同士の交際関係が破局したことを契機に、一方が相手に対して脅迫めいた言動に及んだという相談を受けたことがあります。障害を持つ方の中には感受性が繊細な方も多く、職場内の人間関係の変化が私生活の領域にまで影響し、結果として会社が私生活に近い部分にまで配慮せざるを得なくなる場面が生じ得ます。

また、身体的な事情への配慮をめぐる相談も少なくありません。
例えば、使用者が、腰痛のある障害者従業員から相談を受けて、専用の椅子を手配したところ、その後、同じ従業員から、隣の同僚が作業する音が気になって仕方がなく、精神的に出社がつらいと申し出があり、在宅勤務を認めたケースがありました。
結果として、当初の配慮の範囲を超え、実質的に出社義務そのものを免れるような状態になってしまい、業務指示が困難となっていた事案です。

このように、個別の配慮を積み重ねていった結果、どこまでが合理的配慮でどこからが行き過ぎた免除になるのか、会社側の判断が揺らぎやすい場面が実務上多く見られます。

2.合理的配慮は「努力義務」ではない——法的義務としての性質

一方、会社側の相談でよく見られる誤解として、合理的配慮の提供は「できる範囲でやればよい努力義務」だというものがあります。

しかし、障害者の雇用の促進等に関する法律36条の2・36条の3は、募集・採用時および雇用後のいずれについても、障害者からの申出等に基づき、その障害特性に配慮した必要な措置を講じることを事業主に義務付けています。障害者差別解消法における合理的配慮の提供が努力義務にとどまるのとは異なり、雇用の分野における合理的配慮は法的義務である点に注意が必要です(ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼす場合はこの限りではないとする但書があります)。

「配慮」という言葉の響きから、任意の恩恵的な対応であるかのように受け止められがちですが、実際には、障害特性に応じた何らかの措置を継続的に講じ続ける義務がある、という前提で臨む必要があります。
もっとも、何が合理的な配慮の内容として求められるかは、本人の主観的な希望をそのまま受け入れることではなく、業務の性質や職場の実情に照らした客観的な視点から検討する必要があるので、場合によっては第三者の意見を聞くことが重要です。

3.「過重な負担」による例外と、その判断要素

合理的配慮の提供義務には、事業主に過重な負担を及ぼす場合という例外があります。
厚生労働省の指針では、過重な負担に当たるかどうかの判断要素として、
①事業活動への影響の程度、②実現の困難度、③費用・負担の程度、④企業の規模、⑤企業の財務状況、⑥公的支援の有無等
が挙げられています。
過重な負担に当たると判断した場合、事業主はその措置を実施しないことを障害者に伝え、求めがあれば理由を説明する必要がありますが、その場合でも、話し合いを行い、本人の意向を踏まえたうえで、過重な負担にならない範囲で他に可能な措置がないかを検討することが求められます。

単に「コストがかかるから」「前例がないから」といった理由だけで配慮を拒むことはできず、企業規模や財務状況に応じた個別具体的な検討が必要になる点に留意が必要です。

4.配慮が行き過ぎたとき——本来の職務遂行義務との線引き

実務上悩ましいのが、個別の配慮を積み重ねた結果、当初想定していた職務そのものが遂行されない状態に至ってしまう場合です。
前記の腰痛のケースのように、身体的な負担を軽減するための椅子の手配という合理的な配慮から始まり、音への過敏さを理由とする在宅勤務の許可へと配慮の範囲が広がっていった結果、実質的に出社義務を免れる状態になってしまうことがあります。

合理的配慮は、あくまで障害のない労働者と同等の機会や待遇を確保し、有する能力を発揮できるようにするための措置であって、本来の職務内容や労働契約上の義務そのものを縮減・免除するためのものではありません。個々の配慮要請に場当たり的に応じていくと、気付いたときには労働契約の根幹部分まで変容してしまっていた、という事態になりかねないため、配慮を積み重ねる際には、その時点その時点で「この措置は職務遂行を可能にするための手段か、それとも職務そのものの縮減になっていないか」を都度立ち止まって確認する視点が必要です。

5.精神障害・発達障害など、外見からわかりにくい障害への対応

身体障害と異なり、精神障害や発達障害は外見からは分かりにくく、採用時に本人から自己申告がなければ、会社側がその特性を把握する術がありません。合理的配慮は原則として本人からの申出を契機に検討されるため、申告がなければ配慮の対象として認識されないまま、特性に対する無理解からパワーハラスメント等の被害に遭いやすいという特有の難しさがあります。

会社としては、採用選考の場面で無理に開示を求めることは適切ではない一方で、入社後に特性が明らかになった場合には速やかに合理的配慮の検討プロセスに乗せる体制を整えておくこと、管理職に対して精神障害・発達障害の特性についての基礎的な理解を促しておくことが、ハラスメント予防の観点からも重要になります。

6.2026年7月法定雇用率引き上げが企業に与える影響

民間企業の法定雇用率は、2024年4月に2.3%から2.5%に引き上げられたのに続き、2026年7月からは2.7%へとさらに引き上げられ、雇用義務の対象となる企業規模も従業員37.5人以上(実質38人以上)へと拡大されています。これにより、これまで障害者雇用の義務を負っていなかった中小規模の企業にも新たに対応が求められる場面が増えることになります。単に法定雇用率を満たす人数を確保するだけでなく、本稿で述べた合理的配慮の提供体制を並行して整備しておかなければ、雇用後の定着率の低下やトラブルの増加につながりかねません。

7.まとめ

合理的配慮は努力義務ではなく法的義務であり、過重な負担に当たらない限り、継続的に講じ続ける必要があります。その一方で、配慮を積み重ねた結果として本来の職務遂行義務そのものが縮減されてしまわないよう、都度立ち止まって線引きを確認する視点も欠かせません。2026年7月の法定雇用率引き上げにより対応を迫られる企業も増える中、採用時から雇用後まで一貫した配慮体制を整えておくことが重要です。

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2006年、福岡県弁護士会に弁護士登録。
企業法務(使用者側での労務問題、契約書チェック、コンプライアンス体制の整備)、交通事故での損害賠償請求、相続、離婚などの家事事件、企業の事業再生・債務整理その他一般民事、刑事事件等に取り組む。
企業内の研修やセミナー開催の実績多数。
法律事務所として弁護士の質とサービスレベルの高さを磨き、地域経済、地域社会に貢献することを事務所の理念とする。

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